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私の彼は、余命三ヶ月といわれた。
そして、なんやかんやで、それから十年くらい生きてる。
いや、医療ってすごいよね。まじで。
はじめ、彼の余命の事を聞いた時、私も彼もまだ大学生だった。
私はあの時は超泣いたよ。
だって彼のことが大好きだったし、彼と結婚して、子供を二人くらい産んで、いい感じに年を取って。
そんな未来しか見てなかったから。
だから泣いた。悲しかった。死なないでほしいって思っていっぱい神様に祈った。怪しい宗教にのめりこみそうになって変な壺も買いそうになった事もあった。
絶望だった。
神様にはいつもこう祈っていた。
――少しでも、彼の余命、延ばしてください。
「大丈夫だよ。俺が死んだら、俺よりイケメンで優しい新しい恋人見つけてよ」
彼はそう言って私を何度も慰めた。
「あんたより優しい人なんていないもん。あんたよりイケメンはいっぱいいるけど」
「イケメンはいっぱいいるのかよ」
彼は笑った。
そんなふうにいっぱい話をして、最後だからと色んなとこに行ったりもした。
正直、こういうシチュエーションに酔ってるでしよ、とか陰口をSNSで叩かれたこともあった。
実際、酔ってたのかもしれない。でもそんなことどうでもよかった。
彼と生きた証を残したかった。
そんなふうに過ごした三ヶ月。
大切な三ヶ月が過ぎた。
いつ彼の病気が悪化してしまうかと毎日が恐怖だった。
しかし、彼は悪化しなかった。
どうやら、病院の方で試してみた医療法が彼に合ったらしく、彼はみるみるうちに元気になっていった。
「あんたの三ヶ月、結構長いね」
あまりの彼の元気さに、私は彼をからかった。
彼は真面目な顔をして言った
「お前が俺が死んだ後に、俺よりイケメンで優しい恋人つくってイチャイチャすると思ったら、腹が立って死んでられねえなって思って」
「なんだそれ。てか、あんたが新しい恋人見つけろって言ったくせに」
私は笑った。
余命宣告されてから半年後には、通院や薬の必要はあるものの、普通の人生活が送れるようになっていた。
「死なねえな、俺」
「現代医療すごいね」
そんなこんなで、結局彼は今年で余命宣告されてから十年くらい生きてる。
その間に私達は結婚したし、子どももできた。
娘だ。それも二人も。
何だったんだよあの三ヶ月は。と、私達の間ではもはや笑い話だった
……
なのに、また言われちゃった。
あのときの病が再発したんだって。
今回は余命は特に言われなかった。
でも、いつどうなるか覚悟してくださいって言われた。
「なあんだ。余命、三ヶ月からちょっと延びてただけなんだね」
ケロッとした顔で彼は言った、
「もう少しだけ、延ばせないのかな。せめて子どもたちふたりとも成人するまで、とかさあ」
「……」
「あ、でもそうしたら今度は孫の顔見るまで延してよ、とか欲張りそう」
「……」
「……ちょっと、何か言ってよぉ」
彼は、ベッドの上で、やせ細った身体で笑った。
「あんたが死んだ後さ、娘たち、あんたよりもイケメンて優しい彼氏連れてくるよ、きっと」
私は、彼の顔を見ずに言った。
「そっか」
「いいの?死んでられないんじゃない?『本当に俺よりイケメンで優しいか、確かめてやる』とかしなくていいの?『娘はやらん』とか言ってみたくないの?」
「いつの時代だよ」
彼は笑う。
「あー、でも見てみたいけどね」
「でしょう。死んでられないでしょう」
「そうだね。死んでられないね」
そう、死にそうな顔で笑う彼。
ああ神様。確かに私はあの頃、余命を延ばしてって頼んだ。これが限界だった?十年が限界だった?
神様なんだからもっといけるでしょ!!
ワガママなのはわかっている。
わかっているけど。祈るのだ。
余命なんてクソ喰らえだ。
END
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