11人が本棚に入れています
本棚に追加
上位者テロ──鷹峰前社長が命を落とした一連の騒乱は、人類に存亡の危機を突きつけた。
〈上位者〉と称する超能力者たちのテログループが京都の極秘施設を襲撃したのだ。戦端を開き、地下に潜む超能力者ネットワークを蜂起させることで、人類との開戦をもくろんだ。
僅か数人のテログループが示した能力は驚異的だった。精神感応はもとより瞬間移動や遠隔念爆とくれば、通常兵器による従来の戦略は役に立たない。
それでも人類は下位の屈辱を受け入れはしなかった。〈上位者〉を〈変異者〉と呼び変え、自らが歴史の正統な継承者であると主張した。
ここに、亡霊のように、世に忘れ去られた組織が浮上する。数十年前、既に次世代人類の出現を予見し、その対策に研究を重ねてきた対超能力者組織──APSY(エーサイ)だ。シベリアに本拠を置く亡霊に、各国は支援と連携を申し出た。
こうして、国家や人種、宗教やイデオロギーといった恩讐を越え、歴史上初めて人類は結束を果たす。共通の敵を絶滅するという目的のために。
不都合なものは滅ぼす──それが人類の特性だ。その思惑はさらに肥大する。テロを制圧したのが、ブーステッドマン景宮 周の功績だという事実が気に障るのだ。戦闘型ナノマシン群を体内に秘める男は、もはや純粋な人類とはいえない。
超能力者対ブーステッドというハイレベルな領域の戦闘で、人類は蚊帳の外に居た。もたらされたのは疎外感だけだ。
人類を超える能力をもつなら、すべて〈変異者〉と考えるべきではないか──そんなささやきが交わされ始めた。たとえ政府に属す者であろうと、いつ牙を剥くか知れたものではない。危険なモノであることに変わりはない。
政府の猟犬としてのブーステッドには、強固な首輪が嵌まっている。2年ごとのメンテナンスを受けねば体調を崩し命にかかわる。失調したナノマシンの透析や補充、免疫系の調整が必要なのだ。定期メンテという強固な首輪で、どう猛な猟犬を管理下に置くことができた。これまでは。だが──
ECHIGOYAの科学部門Eテクノロジーズが開発した新世代ナノマシン〈E10〉が革新を起こす。自己制御能を有するE10は人体の骨髄とリンクし、生来の血液細胞のようにふるまう。増殖や自壊まで行うのだ。
最初のコメントを投稿しよう!