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私には、春香という親友がいる。
彼女とは、幼稚園からの付き合いだ。
そんな春香には、美人で優しいと有名なお母さんがいた。
春香のお母さんの趣味はガーデニングで、よく私達を招いてはガーデンパーティーを開いていた。
そんなある日。
私が25歳の時、川越に行った旅行のお土産に、春香のお母さんに小さな桜の鉢植えをプレゼントした。
その桜に「桜ちゃん」と名をつけ、大層可愛がってくれた春香のお母さん。
桜ちゃんはどんどん伸びて、やがて鉢植えには収まらない位に成長した。
そんな桜ちゃんに、まるで自らの子供の様に毎日話しかける春香のお母さん。
反対に、かなり遅い反抗期になった春香はお母さんとのコミュニケーションはどんどん減っていく。
そうして、数ヶ月後にはお母さんはやがて、桜ちゃんとしか会話をしなくなっていたらしい。
以降、まるで桜ちゃんがもう1人の娘であるかの様に振る舞っていく様になった春香のお母さん。
夕食の時など、桜ちゃんは庭にいる筈なのに――お母さんは、まるで桜ちゃんも同じテーブルについているかの様に誰もいない席に向かって話しかけている日もあったそうだ。
時には、新しい植木鉢に植え替えた桜ちゃんを鉢ごと抱きしめて眠っていた日もあったらしい。
それから数日後、春香が学校から家に帰ると、春香の部屋の真ん中に、桜ちゃんが鎮座していたそうだ。
(このままでは、私の居場所が乗っ取られてしまう)
そう考えた春香は、桜ちゃんをつかむと、窓から投げ捨てた。
瞬間、春香の脳内に、とても幼い女の子の声で、
「お姉ちゃん、ずるい」
と、聞こえて来たらしい。
この日以降、春香のお母さんが植物を娘の様に扱うことは無くなったそうだ。
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