0人が本棚に入れています
本棚に追加
見つけた
彼女だ
風が少しだけ暖かくなった春に
駅前の交差点の向こう側で
友達らしい女性と何か話しながら
信号待ちをしている彼女を見た。
僕は彼女を知っている
あれは2年前の
今よりまだ風が冷たい頃
その日、僕は救急隊員として勤務していた
夜、9時前に
母親からの救急要請が入った
「20才の娘が痙攣をおこしてる」
痙攣発作は持病で起こる事も有るので、収まるまで様子を見ることも有るのだが、初めての発作らしく、
母親は直ぐに119番に電話したようだった。
到着すると発作は治まっていたが、
原因がわからないので、母親は病院への搬送を希望した。
彼女はリビングのソファーに座って、
我々をじっと見ていた。
隊長が依頼を受けた経緯と状況を説明しても何も答えない。
ソファーに座り直したり、ブランケットを掛け直したりの動きはしても、母親が「病院に行こう」の声かけにも応えない。
少しだけ怯えを含んだ真っ直ぐな目で前を見つめている様子に、少し違和感を覚えた。
家族の要望が有っても、成人している本人の同意がなければ、病院へ搬送する事は出来ない。
15分以上経過して、どう対応しようかと考え始めた時に、突然立ち上がり
「病院へ行きますか」の声かけに頷いた。
救急車に乗り込み、病院に向かう途中で母親と言葉を交わす様子はそれまでと違い、とても普通に見えた。
病院に搬送すると任務は終わる。
僕はそれから、時々あの真っ直ぐな彼女の目を思い出していたけど、任務で知り得た情報を私用で確認するわけにもいかず、そのまま日々は過ぎて行き、また会いたいと思いながら、どうする事も出来ずにいたのに
気がついたら、彼女に話掛けてた
「あの・・・」
彼女はあの時と同じ少しだけ怯えを含んだ真っ直ぐな目で、僕を見た。
ただ違うのはその目は彼女の意思で僕に向けられている。
fin
最初のコメントを投稿しよう!