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新しい家族・再び
そうしてまたも我が家に、新たな家族が増えた。
あの日歯医者を出た俺は、近くで開かれている保護猫の譲渡会を調べて駆け込んだ。簡単に譲ってもらえるわけでなかったが、それこそ虐待や、相性のトラブルで捨てられたりする悲惨なケースを避けるためにはやむを得ないのだろう。
俺は杏と何度か足を運び、無事にメスのキジトラを譲り受けることができた。
「それにしても急に猫が飼いたいなんて言うから、びっくりしたわ。まあ猫は好きだからいいけれど」
猫を飼うようになってから、俺の前歯の伸びはぴたりと止まった。
ネズミ系の小動物にとって、猫は天敵だ。だから部屋に猫がいると、その呪いの効力も消失するかもしれないと踏んだのだ。タナちゃんのことは可愛かったし、手放してしまって申し訳ないとも思うが、やはり呪われるなんてのは気分のいいものじゃない。
引き取ってくれた総務の女性によると、幸いタナちゃんは元気にしているらしい。あの獣医師が言ったとおり、記憶力が弱いぶん、今の飼い主に懐けば早晩俺のことも忘れてくれるだろう。
「でもトラってば、ずいぶん純くんに懐いているのね。まだそんなに経ってないのに、もう何年も飼ってるみたい」
俺はトラを抱っこしながら曖昧に頷いた。
前の飼い主に捨てられたところを保護され、そのまま俺の家に来たせいだろうか。トラは妙に俺に懐いていた。それは嬉しいのだが、逆に少々心配でもある。何しろ嫉妬深いということでは、猫も決して油断できない。いや、ハムスターに較べたらはるかに賢い分、かえって厄介だとも言える。
何があっても、トラとは大事に添い遂げていかなければならないと、俺は固く心に誓っていた。
「まあね。きっと相性がいいのかな。とにかくトラは前の飼い主にひどい目に遭わされたんだから、今度は大事にしてやらないとな」
俺がトラを撫でると、トラは甘えるようにみゃああと鳴いた。
「そうね……それはそうなんだけど……」
杏は言いにくそうに口ごもった。
「何だよ、まさか猫に嫉妬してんの? 嫌だなあ。トラはトラ、杏ちゃんは杏ちゃんだってば。どっちも可愛いし、どっちも大事。でしょ?」
「――違うの」
杏は不安そうに、両手を自分の頬に当てた。
「私ね、最近頬っぺたがちくちくするの、両方とも――まるで何か生えてくるみたいに」
「え……?」
恐る恐る顔を近づけてみると、確かに鼻の脇あたりに何かぷつぷつとしたものが伸び始めているのが見える。これは、これはもしかして……。
俺の腕の中で、またトラが満足そうにみゃああと鳴いた。
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