燭光6-⑴

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燭光6-⑴

 山の手から西に四陵郭の方へ馬車を走らせた流介たちは、亀田川の手前のほとんど住居のない場所でいったん馬を止めた。 「ううむ、こんな何もない場所にお屋敷があったらそれこそ怪異の舞台だな」 「四陵郭はこの奥だと思いますが、行ってみますか?」 「いや、いいよ。別に人がいるわけでもないのだろう?戦争をしのぶだけなら別の機会でいいよ」 「では、問題の薬園とやらを探すとしますか」 「見慣れぬ風景のせいか、あって欲しいようなあったら恐ろしいような奇妙な気分だな」  流介は陽が高いにもかかわらず、背筋がぞくぞくするのを覚えた。手綱裁きには自信があるという天馬と一緒でも、『伯爵』の亡霊とやらに馬が取り憑かれるやもしれぬと思ったら、それだけで身震いがしてくるのだ。 「あっ、天馬君、あっちの方に花壇のような物が見えないか?ただの草地と言えばそれまでだが……」  流介が指さしてみせたのは、道を外れた荒れ地の奥に見える赤や黄色の色彩だった。 「そうですね。丹精された花壇ではなく、ただの野の花のようにも見えますが……行ってみますか」  天馬は馬の向きを変えさせると、雑草だらけの道なき荒れ地を花畑の方へ進んでいった。  しばらく進むと、あまり見かけない色形の花が大小咲き乱れる場所が目の前に現れた。 「ここで降りましょう。ちょうどうまい具合に馬を繋げそうな立木があります」  天馬はさっと馬車を降りると、立木に馬を繋ぎ始めた。流介は不思議な香りの漂う花畑に降り立つと、ぐるりと周囲を見回した。 「こんな場所に本当にお屋敷なんてあるのかな」  さほど草の丈が高いわけでもないのに周囲が霞んで見えることに、流介は警戒を強めた。  馬車を繋ぎ終えた天馬が見通しのよさそうな方角を見て「さあ、行きましょう」と流介を促した、その時だった。流介たちの前に、どこからともなく小柄な影がゆらりと姿を現した。 「薬草を見にいらしたのですか?」  立っていたのは、西洋の執事を思わせる黒服に身を包んだ小柄な年配男性だった。 「あ、いえその……」 「ここは奥様が丹精している薬園です」 「奥様……」 「勝手に歩きまわられては困りますが、興味がおありになるのでしたらお屋敷の方へどうぞ。奥様に紹介させて頂きます」 「ということは、近くにお屋敷のような建物があるのですね」 「ございます。こちらへどうぞ」  執事らしき男性に誘われるように進んでゆくとやがて、目の前に欧風の小さな館が幻か何かのように忽然と姿を現した。
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