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燭光6-⑵
「本当だ、こんなところにお屋敷が……」
見慣れぬ花に囲まれて草むらに建つ『伯爵の館』は、天馬の『幻洋館』をひと回りほど大きくした感じのこじんまりとした建物だった。
「奥様、お客様でございます」
執事が重厚なドアをノックしながら呼びかけると、ほどなくドアが開き二十代後半に見える洋装の女性が姿を現した。
「あら珍しい。しかも二人も。……どうぞお入りになって。お茶をお出ししますわ」
気品とも妖しさともつかぬ魅力を漂わせる女性に誘われるまま、流介と天馬は洋館の扉を潜った。
「この人が『伯爵夫人』と考えてよいのかな」
「まだわかりませんが、振る舞いから見て恐らくそうでしょう」
流介たちが通されたのは領事館などで見る広間を小さくしたような部屋だった。テーブルの上には西洋の燭台が置かれ、火のついていない蝋燭が立てられていた。
「あれ、この写真……」
壁にかけられていた小さな肖像画に気づいた流介が思わず声を上げると、女主人は「ああ、それですか?それは五十年ほど前に描いていただいたものです」とさらりと応じた。
「五十年前……」
流介は絶句した。絵の中の女性は女主人のように見えるのだが、服装がかなり古い欧州風のドレスで髪型などを見ても本当に古いかあえて昔風にしているような印象だったのだ。
「今と変わりないのが不思議ですか?実は夫と会ってから年を取らない西洋の呪法を身につけたのです。夫も私と会った時、すでに百年ほど生きていると言っていました」
「まさか……」
流介は絶句した。仮に法螺だとしても、真顔で言うようなことではない。正気なのだろうか。
「さあ、どうぞお楽になさって」
女主人に椅子を勧められ、緊張で流介が身を固くしているとほどなく茶が運ばれてきた。
「天馬君、経験から言ってこういう時に振る舞われる茶には用心した方がいいのでは?」
「ふふっ、飛田さんも場数を踏んで危険を察する能力が備わってきましたね」
カップに注がれる液体が放つ香りは、どこか薬湯めいた匂いがして流介は警戒を強めた。
――どうする?色々と聞き出すには一応、口をつけるふりくらいはすべきなのか……
あれこれ思案を巡らせていると、隣でごくりと喉が鳴る音が聞こえ流介はぎょっとした。
「て……天馬君!」
流介が小声で叫ぶと、天馬は呑気な声で「うん、漢方薬みたいですがおいしいですね」とお茶の感想を述べ始めた。
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