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燭光1-⑶
「あっ、飛田さん。心配して見に来て下さったの?」
「心配せずにいられると思うかい。……怪我がないのが不思議なくらいだよ」
「うふふ、馬を荷台から切り離せばこうなるに決まってますわ。……あとは怪我をしないように、転がり落ちるだけ。幸い、お服が汚れただけで済みました」
「いったい、どうやって馬を荷台から切り離したんだい」
「馬と荷台を繋いでいる部分を銃で撃っただけですわ。揺れるので的がぶれそうでしたけど」
恐ろしいことをこともなげに言う美少女に流介が唖然としていると、「やあ、どうやら無事だったようですね」とこれまた浮世離れした美青年が自転車を転がしながら姿を現した。
「言っていいかな天馬君。全く君たちは揃いも揃ってどうかしているよ」
「はあ、よく言われます」
天馬が流介の苦言を褒め言葉か何かのようにさらりと受け流した、その時だった。
「……あの、助けて下さってありがとうございます。私、ちょっと荷物を見て来ます」
手綱を操っていた女性はそう言ってぺこりと頭を下げると、車輪の外れかけた荷台に向かって歩き始めた。安奈と同じ洋装だが、目が大きく髪がふわりと波打っている。流介の周りにはあまりいない、どこか異国の雰囲気を漂わせる女性だった。
「飛田さん、僕らも荷物を見に行きましょう。ことによってはどこかに手で運ぶ必要が出てくるかもしれません」
「あ、ああ」
天馬に言われ、流介は安奈と共に荷台の方に向かって歩き始めた。横倒しになった荷台の傍らには何やら四角い箱のような物が転がっており、女性はそれを質屋が品定めをするように様々な方向からあらためていた。
「やあ、これは船箪笥ですね。小さいがなかなか立派な物だ。壊れてないといいのですが」
天馬が女性の抱えている荷物を見るなり、興奮した口調で言った。
「船箪笥?」
「ええ、おそらく。北前船などに積んで持ち運ぶ、大切な物をしまう箱ですよ」
流介の問いかけに、天馬は今見た荷物の名前と使い道とをすらすらと答えた。
「ふうむ、ということはそいつも中に大事な物がしまわれているのかな」
流介が頭に浮かんだ疑問を口にすると、箪笥をあらためていた女性が顔を曲げ「わかりません」と言った。
「わからない?」
「はい。これは叔父から預かった物で、湾の出口近くにある岩礁に引っかかっていたのを引き揚げたものだそうです。叔父は多忙なので、私が詳しそうな方の所へ持ってゆく途中だったのです」
女性ははきはきした口調で言うと「申し遅れました。私は大十間椿と言います」と付け加えた。
「大十間?ひょっとしてあなたは大十間巌さんの御親戚か何かですか?」
流介が尋ねると、女性は目を丸くして「どうして叔父の名を、ご存じなのですか?」と聞き返した。
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