燭光7-⑵

1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ

燭光7-⑵

「あたくしの説は、『伯爵夫人』の愛と裏切りの物語でございます。『伯爵夫人』こと小夜と宇賀上さんという方の奥様は、同一人物なのでございます」 「えっ」  流介は大胆過ぎる仮説に思わず耳を疑った。 「では『伯爵夫人』は自分で自分を殺害したというのですか」 「そうともいえます。簡単に言うと『伯爵夫人』としての彼女の生活と『宇賀上夫人』としての生活、つまり二重生活を営んでいたというわけなのです」 「二重生活……」 「謎めいた『伯爵』に魅入られた彼女は薬園を任され、次第に夫の世話をする生活を疎ましく思うようになりました。そして『伯爵』が突然亡くなったのを機に夫である宇賀上と「自分」を殺害し、薬園を営む『伯爵』の未亡人として生きてゆこうと決意します」 「しかし馬車の事故では、死体が夫婦そろって発見されたのではありませんか?」 「ですから途中で馬車を止めさせて、あらかじめ因果を含んであった自分にそっくりの女と入れ代わるのです。もちろん、女には後で殺すことは告げません」 「まさかそのような恐ろしい女とは……」 「そして薬草の知識を持つ『伯爵夫人』は、そっくりな女と入れ替わる際に時間が経つと効くような毒をを馬の餌に混ぜておいたのです」 「ううむ、やや難しい気もするが、あり得なくはないな」 「期待通り夫と「自分」は事故で亡くなり、彼女は念願だった薬園を営む自由な生活を手に入れたのです」 「それで、画家はどうなったのかな」 「おそらくどこからか『伯爵夫人』と豪商の妻が同一人物であることを突き止め、屋敷に押しかけてきたのだと思われます。気ままな生活を失いたくなかった『伯爵夫人』は、画家を招き入れ生活の面倒を見ている……というわけです」 「なるほど……しかし自由を手に入れるために、何の関係もない女を殺すとは」 「それだけではありません。もしかすると『伯爵夫人』は薬草の知識を元に、画家に少しづつ毒草の成分を盛って亡き者にしようとするかもしれません」 「いやはや、何とも恐ろしい話だ」 「あたくしの推理は、以上でございます」  ウメはとんでもない推理をさらりと述べ終えると、ぺこりと頭を下げた。 「では最後は、私の説で締めさせて頂きます」  ウィルソンはそう前置くと「では」とおもむろに口を開いた。 「一連の話をうかがって私が感じましたのは、『伯爵』と言う男はやはりこの世ならぬ力を持った超人だったのではないかということです」  流介はまたしても「えっ」と叫びそうになった。それは推理というよりただの奇譚だ。 「すなわち木乃伊となってもなおその身体に霊力を宿し、周囲の人を動かしていたと考えられるのです」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加