燭光1-⑷

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燭光1-⑷

「そうか、大十間さんの姪御さんだったのか……これはまた、何という奇遇だろう」  流介は不思議そうな顔の女性と日本人離れした豪傑の顔を重ね合わせ、ううむと唸った。 「しかし荷物を運ぶ途中で馬が暴れ出すとはとんだ災難でしたね。こんなことになっては運びようがないでしょう。代わりの荷馬車をどこかで都合しなければ」 「そうですね、さすがに私の力では持って運べないと思います」 「天馬、荷馬車を探しに行きましょう。少し時間がかかるかもしれないけど、何とかなると思うわ」 「えっ、じゃあ大十間さんをそれまでここに待たせておくのかい?」 「大丈夫よ。飛田さんといれば退屈はしないはずよ。……ね?飛田さん」 「ええ、まあ……」  安奈の当然のような口調に、流介は異論を唱える事もできず頷いた。 「それじゃ決まりね。最初は私が漕ぐわ。乗って、天馬」 「あ、ああ。……そういう訳で飛田さん、しばらく待っていて下さい」 「うん、わかったよ」  天馬たちは有無を言わせぬ勢いで流介を説き伏せると、自転車に乗って去って行った。 「ええと、先ほど馬車を止めた二人ですけど、男性の方は伝馬船(てんません)の船頭をしている水守天馬君と言ってあなたの叔父さんの後輩に当たる人物です」 「えっ、あの方が有名な船頭探偵ですの?どうりで美男子だと思いましたわ」  流介はおやと思った。『船頭探偵』という呼称は一部の人たちにだけ使われている通り名で、街全体に広まっているわけではない。この女性も我々に劣らず巷の奇妙な噂に通じているということか。 「それにしても荷馬車の馬が暴走するとは、恐ろしい目に遭いましたね」 「ええ。いきなり暴れ出したので、どうしていいかわからなくなって……」  先ほどの恐ろしい記憶が甦ったのか、椿は目を伏せふっと口を閉ざした。気まずい沈黙に流介が適当な話題はないかと記憶を弄り始めた、その時だった。 「やあお待たせしました。箪笥を乗せるのにちょうどいい荷馬車を探していたら、遅くなってしまって」  戻ってきた天馬はすまなそうに言うと、「なるべくおとなしそうな馬を選んだので、ひょっとしたら到着も遅れるかもしれません」とつけ加えた。
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