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燭光8-⑸
「木乃伊の手首を切り落とした頃、「共犯者」は宇賀上良蔵さんと知り合いました。そして良蔵さんが自分の弟とその妻を憎んでいる事を知ったのです。
「見て来たようなことをおっしゃるのね。証拠はあるのかしら」
「ありません。ただの想像です。……そして偶然「共犯者」も栄蔵さんか奥さん、あるいはその両方を憎んでいたのです。そこで木乃伊を中心とする物語をこしらえて呪いの力で二人が死んだように見せかけた」
天馬はそこまで言うといったん言葉を切り、それから声を低めて再び語り始めた。
「実際には、宇賀上夫妻が事故に遭うように細工をしたのだと思います。その犯行を目立たせないために和久間さんを使って二人の死が呪いだと思わせたわけです」
「そううまくゆくものかしら。画家の方が必ずしも「手」を売りに行くとは限らないのではなくて?」
「この屋敷で『伯爵の木乃伊』を見せられた和久間さんは、肖像画を描く代わりに魔力を持つ「手」を進呈されます。そしてこう囁かれたのではないでしょうか。「お金に困ったら船問屋の庄兵衛さんに売りに行くといい、あの人ならこの話を信じるに違いない」――と」
――そうか、和久間さんが現れたことでぼろぼろの木乃伊を生かす方法が生まれたという訳か。それまでは宇賀上さんに恨みはあっても殺害までは考えていなかったというわけだな。
「その宇賀上という商人とその奥さんを、どうやって殺したと言うのかしら」
「ここからは想像になりますが、馬の餌に毒を混ぜたのではないでしょうか」
「毒?」
「はい。例えばの話ですが、ニンジンの葉に似た毒のある植物があります。これを外国人を通じて手に入れ、餌になる草に混ぜて馬に与えるのです。もちろん、馬が警戒して食べない可能性もありますし、食べたとしても事故が起きるとは限りません。しかし結論から言えば事故は発生し、宇賀上夫妻は亡くなりました。つまり『伯爵の手』は期待通りの効果を上げたわけです」
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