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燭光1-⑴
「それで、その人が言うには木乃伊に電流を流したところ、目がぱちりと開いて喋り出したというのですよ」
「木乃伊の目が?そんな馬鹿な」
「それでですね、木乃伊が言うには「自分は古代埃及の伯爵で、八百年ほど生きている」のだそうです。そして古代の文明は今をしのぐほどだったと自慢話を始めたんだそうです」
「なんだいそれは。馬鹿馬鹿しすぎて奇譚と言うのもはばかられるような話じゃないか。悪いけどうちじゃ使えないな」
『匣館新聞』の記者である飛田流介がそうぼやくと、奇妙な「街の噂」を得意げに披露した後輩記者の瑠々田弥右はがっくりと肩を落とした。
「なんだあ、せっかく面白い話を仕入れてきたのに」
弥右が不満げに頬を膨らませていると、先輩記者と話をしていた男性――薬局の御隠居で『猟奇新聞』という個人新聞の発行者である石水善吉がつかつかと歩み寄り「若い記者さん、その話を記事にするのはまずいですな」と言った。
「もちろん、しませんが……なぜです?」
「その話は有名作家の短編と同じ内容だからですよ。エドガー・アラン・ポーの『木乃伊との対話』と言う話です」
「そうだったんですか、参ったなあ。ポー、ポー……なんだか聞いたことがあるけど、有名なんですか?」
「有名ですとも。面白いですよ」
「そうですか……よし、今度見つけて読んでみることにします」
「瑠々田君、噂話を仕入れてくる時は気をつけてくれたまえ。あと、もう少し本を読んでだね……」
ポー、ポーと汽笛のように繰り返す弥右に呆れつつ、流介は言わずもがなの小言を口にした。
「なんです、先輩だって知らなかったくせに。お説教の前に先輩こそ本を読んでください。でないと天馬さんに馬鹿にされますよ」
流介は善吉の「一本取られましたな」という言葉に閉口しつつ、確かになとため息をついた。
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