渚、新婚夫婦に優良物件を売る

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よし・・・ここでもう一押しね。 オフではシフォンのシャツに柔らかなシルエットのスカートでフェミニンに決めている渚だが、仕事中はスレンダーな身体を濃紺のパンツスーツで包み、肩まである黒髪を後ろ一本に結んでいる。 少し潤みがちでアーモンド形な瞳を輝かせながら、渚は気合いを入れて片手を大きく掲げた。 「如何ですか?リフォームしたばかりの綺麗な壁とフローリング、見晴らしの良い8階の角部屋、南向きで日当たり良好!駅からたったの徒歩5分!そして最寄りの桜美南駅はもっか大手デベロッパーによる開発が進行中で大きなショッピングモールや映画館を建設中です。近隣には緑豊かな公園や幼稚園、保育園がございますので、お子様を育てるにも最適な環境だと言えましょう。そしてさらにこのマンションはオートロックな上、管理人も常駐しておりますから、防犯面も安心できると思いますよ?」 眼鏡をかけひょろりとした風貌の夫と、そろそろお腹の出っ張りが目立ってきた妻が、お互い相手の表情を伺いながらも、はにかんだ笑顔で見つめ合っている。 その姿を見ながら渚はにこやかに微笑みつつ、心の中でつぶやいた。 新婚2ヶ月なのに妊娠7ヶ月、ということはできちゃった結婚、いや今は授かり婚って言うんだっけ? ああ、このマンションの一室で繰り広げられる会話が目に浮かぶ。 「お帰りなさい!ダーリン」 「ただいま!マイハニー」 「ごはんにする?お風呂にする?それともわ・た・し?」 なーんてね。 でも結婚5年目ともなると子供の世話にあけくれる妻とマンションローンのためにお小遣いもろくにもらえない夫のバトルが始まる。 「もう少し小遣いあげてくれよ。こんな額じゃ後輩を連れて飲みにもいけないよ。」 「はあ?飲みに行く?私は家事と育児で一日中働いてへとへとなの。外でランチどころか美容院も新しい服を買いに行く時間もないの。飲みに行けないくらい我慢しなさいよ!」 「自分の金を自分で使うのになにが悪いんだ。小遣い上げろ!」 「その稼ぎが少ないから小遣い上げられないって言ってんの!それくらい空気読みなさいよ!」
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