渚、結婚の極意を教わる

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渚はテキパキとした手先で、餃子を形良く作っていく汐子をじっとみつめた。 母汐子は父と同じ職場で働いていた。 いわゆる職場結婚というやつである。 父の啓治(けいじ)は中学の国語の教師、母汐子は啓治が勤める中学の学校事務の公務員。 ふたりは結婚し、汐子は仕事を辞めて主婦をしながら子育てに専念し、子供達がある程度育ち手が離れるとスーパーのパート社員として再び働き始めた。 母は子育ても仕事もしっかりこなす立派な女性だと思う。 自分も母のようになりたい、と思う一方結婚や子育てを機に一瞬でも仕事を辞めてしまうことに抵抗を覚えるのも、渚の正直な気持ちだった。 「ねえ。お母さんは結婚して仕事を辞めることに躊躇い(ためらい)はなかったの?」 渚の問いに汐子は料理の手を止めずに答えた。 「そりゃ少しは、ね。だって私、仕事好きだし。」 「じゃあなんで辞めたの?続けることは出来なかったの?」 「うーん。」 汐子は少し考えたあと、少し照れくさそうに笑った。 「でも結婚してお父さんを支えたいなって思う気持ちの方が大きかったのよね。ほらお父さん見ての通り、なんにも出来ない人でしょ?」 汐子はリビングのソファでビールを飲みながら、テレビの野球中継を見ている啓治を眺めた。 「お父さん、生徒ひとりひとりに目を配って、授業の内容にも工夫を凝らしてて、仕事が第一で。だからプライベートが疎かになっててね、お昼ご飯も職員室でカップ麺ばかり食べてた。でもそんなお父さんをいいなって思ったから結婚したの。お父さんのプライベートは私がちゃんと管理してあげようと思ってね。」
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