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 そんな怪奇現象に見舞われていたため、わたしは一人暮らしを始めてから、人形やぬいぐるみの類を部屋に置かないようにしていた。今更人形の髪が伸びたところで悲鳴を上げたりはしないが、単純に面倒なのだ。自分の前髪の手入れさえ億劫なのに、その頻度が何倍にもなるなんて、たまったもんじゃない。  人形たちのカットから解放された日々は、本当に快適だった。就職活動が始まったころに、最近髪が薄くなり始めたという父から、実家へ戻らないかと熱心に誘われても断った。  暮らしが一変したのは、社会人になって2年目にできた恋人のせいだった。  少し気障なところがあった彼は、誕生日に大きなぬいぐるみをくれた。座った体勢でもゆうに50センチ以上ある、毛足の長いクマのぬいぐるみだ。 「こいつを俺の代わりだと思ったら、ひとりでも寂しくないだろ」  そんな馬鹿みたいな台詞を恥ずかしげもなく言ってのけた彼に、同じく馬鹿だったわたしは、例の現象も忘れて感激し、彼の名前を文字って『クママサ』という名前まで付けた。タイムマシンがあるなら、あの時に戻って「目を覚ませ」と平手打ちしたい。  結局、それから1年と経たないうちに彼とは別れ、思い出のある服やアクセサリーなんかもすべて処分したのだけれど、クママサだけはどうしても捨てることができなかった。未練があって、本当に彼の代わりと思っていたわけでは全然なく、やはりぬいぐるみというものは捨てづらい。名前を付け、定期的に毛まで切ってあげていたとなると、なおさらだ。人形と違って、多少さぼっても呪物感が出ないから、その点まだ気楽だった。
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