121人が本棚に入れています
本棚に追加
「なにが食いたい?
焼き肉もいいよなー」
「え、私、お金ないですよ!」
歩き出した彼と一緒に私も歩く。
「奢ってやるから心配するな」
「ほんとですか?
やったー」
あのベンチに座ったときはもう一生あそこから動けそうにないほど心は重かったが、彼のおかげですっかり軽くなっていた。
連れてきてくれたのはカウンター席だけの、七輪で焼く店だった。
ダサお洒落って感じで若者にも人気なのか、デートっぽい人もいる。
「ビールと……」
席に案内され、座りながら彼が注文をする。
ちらっとこちらに視線を送られ意味がわかり、壁に貼っているメニューにざっと目を通した。
「レモンサワーで」
「あいよー」
カウンターの向こうで店主らしきおじさんが返事をし、手際よく準備が進んでいく。
すぐに目の前にはジョッキとお通しのカクテキが置かれた。
「じゃ、君の失業に」
悪戯っぽく彼が笑う。
「……乾杯」
微妙な気持ちでグラスをあわせ、口に運ぶ。
空きっ腹にアルコールが染みた。
最初のコメントを投稿しよう!