第一章 会社をクビになりました

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「いまさらだけど。 俺は渡守(わたしもり)、渡守暢祐(のぶひろ)だ。 土木会社で働いている」 町工場の従業員かと思った彼――渡守さんは土木作業員だったらしい。 そういえば現場がどうとか言っていたような。 「兎本(うもと)璃世(りせ)、です。 無職になっちゃいました」 「そうだな」 おかしそうに小さく笑い、彼がジョッキを口に運ぶ。 そういうのがなんかいいなと思っていた。 頼んだ肉が出てきて渡守さんが焼いてくれる。 というか焼かせてくれない。 焼き肉奉行体質なんだろうか。 「兎本さんは土木業で働くのに抵抗はないか」 「ハイ……?」 つい、行儀悪く箸を咥えたまま彼の顔を見ていた。 「あー、抵抗はないですけど、体力には自信がないんでご迷惑をおかけするかと……」 これはもしかして、同じ職場で働かないかといってくれているんだろうか。 気持ちは嬉しいが、体力もないし筋力もない私では無理だろう。 「あ、いや。 現場じゃなくて事務なんだが」 ぽいっと彼が、私のお皿に焼けた肉を入れてくれる。
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