121人が本棚に入れています
本棚に追加
「いまさらだけど。
俺は渡守、渡守暢祐だ。
土木会社で働いている」
町工場の従業員かと思った彼――渡守さんは土木作業員だったらしい。
そういえば現場がどうとか言っていたような。
「兎本璃世、です。
無職になっちゃいました」
「そうだな」
おかしそうに小さく笑い、彼がジョッキを口に運ぶ。
そういうのがなんかいいなと思っていた。
頼んだ肉が出てきて渡守さんが焼いてくれる。
というか焼かせてくれない。
焼き肉奉行体質なんだろうか。
「兎本さんは土木業で働くのに抵抗はないか」
「ハイ……?」
つい、行儀悪く箸を咥えたまま彼の顔を見ていた。
「あー、抵抗はないですけど、体力には自信がないんでご迷惑をおかけするかと……」
これはもしかして、同じ職場で働かないかといってくれているんだろうか。
気持ちは嬉しいが、体力もないし筋力もない私では無理だろう。
「あ、いや。
現場じゃなくて事務なんだが」
ぽいっと彼が、私のお皿に焼けた肉を入れてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!