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そうこうしているうちに、自分より若い選手が次から次へと出てきて、その中には9秒台を出す選手も出てきた。
「延岡はもう終わった。これ以上はもう伸びない」
そんな声も聞かれるようになってきた。
延岡も自分を見る周りの目が若い頃とは違っているのには気づいていた。
しかし、延岡はあきらめなかった。
もし、年が経つにつれてタイムがどんどん落ちてきて、平凡なタイムしか出せなくなっていたら、あるいはあきらめていたのかもしれない。
しかし、延岡は他の選手に9秒台を出されたとはいえ、まだ日本で上位の成績を残していた。
それだけに、30歳を超えたからといってあきらめることなどできなかった。
「俺ならできる。もうひと伸びさえできれば、俺は絶対に9秒台を出せる!」
そう自分に言い聞かせ、毎日厳しいトレーニングを重ねてきた。
延岡は30歳を超えて初めてのレースに臨んだ。
これまでになく充実した練習をすることができ、コンディションも過去最高ともいえる状態に仕上がっていた。
「いける。これなら9秒台を出せる。そして、日本一になって、オリンピックに出場するんだ!」
しかし結果は……上位に入ることはできたが、優勝することはできず、やはり9秒台を出すことはできなかった。
優勝したのはまだ10代の若者で、しかも延岡がいまだに出すことのできないでいる9秒台を出しての優勝だった。
マスコミや関係者は一斉に優勝した選手のもとに集まってきた。入賞をした延岡のところに来る者など誰もいなかった。
この結果にはさすがに延岡も心が折れそうになってしまった。
「なぜだ。これまでで最高のトレーニングをしたのに、なぜタイムが伸びないんだ……」
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