プロローグ

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プロローグ

「ミレーネ様ッ!? 何をッ!?」    スタンレイは青ざめた顔で叫んだ。ミレーネが自身の左胸に向けて短剣を構えていたからだ。    追手はすぐそこまで迫っている危機的な状況で、王女ミレーネ・ファーヴァニルは覚悟を決めた。  彼女の騎士であるスタンレイ・シグルドは、それを良しとはしなかった。彼はいかなることがあろうとも、姫の命を守りたい。 「……スタン、諦めましょう。……もうここまでよ」  ミレーネは凶器を捨てようとはしなかった。スタンレイは動揺しているせいで、力が入らず、彼女の手から凶器を取り上げることができない。ふたりは短剣を掴み揉み合う。      「時間がない。ふたりが死んだら全てが終わる! その前にもう一度やり直すの! だから、この短剣を私の心臓に刺して!!」   「おやめくださいッ。あなたを愛している俺に、こんなこと、させないでください」   「くうっ」    ミレーネはぐっと手に力を込めた。短剣の切先が彼女の左胸に引き寄せられていく。     「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!」    スタンレイは頭を振った。涙のしずくが飛び散る。     「お願い、スタンレイ……。」   「──!?」      とすっと、ミレーネの胸に短剣が突き刺さった。    彼女の左胸がじわじわと赤く染まっていく。スタンレイがもう二度と見るまいと心に誓った光景が目の前に展開されていた──。     「ミレーネさまああああァァァァァァァァ!!」    スタンレイは叫んだ。  視界が涙で滲み、ぐにゃりと歪んでいく世界の中に引きずり込まれていく。      ──これが、2度目の時戻し体験であると彼が悟ったのは、もう少し後のこと。
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