秘めた恋にご注意を

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秘めた恋にご注意を

好きの基準が、誰にでもあるなら…  俺の基準は、先ず顔。容姿。  性格は、どうでもいいと言いたいけど、妥協すると後々、痛い目に合うのは自分だと言う理由から。難有りは無いと思ってた。  ザックリ言うと、DQN的な?  悪く言うと…周りから見てもあきらかなぐらいに浮いてそうなヤツとか…  決して近付きたくない勘違い系なヤツで1人で、アワアワ騒ぐヤツとか… 後…平気で嘘付くとか、裏切るとか?  そして、もう1つ。  怪しいヤツ。  そう言う感じのヤツ。  俺自身、身長が高いだけであんまり目立つような容姿じゃない。  割りと普通で、モブっぽいが友達やら知り合いは多い。  コミュ力が、尋常じゃないぐらい高いと言われたり。  誰とでも、直ぐに仲良く出来ると言われてるのは…  「出会いだよな…いつどうやって人って出会うか、分からねぇし! 知り合いに片寄りとかあると、視野が狭くなるって言うしな」  「…そんなもん?…」  眠たそうに、気だるそうに…  日陰で涼む猫みたいに亜玖斗は、壁にもたれて軽く目を閉じている。  顔のパーツのドレを取ってもこれ以上の仕上がりが、難しい程に綺麗に整っていて…  行く先々で女でも男でも、必ず目を止める。  それこそ目を輝かせて、近寄ってくる連中もいるが……  声を掛けられて振り返った瞬間に向けられる眼光の鋭さと言うか、目付きの悪さ…  藪睨み?  ホントにシャーって、威嚇する猫そのものだ。  俺だって、最初のウチは割りと顔がタイプって思ったけど…  期限悪そう? 的な感じで声は掛けない方が、いいかもと判断してモブに徹した。  つるんでる連中は、俺とはまたタイプの違った陽キャで…  ガラこそ悪くはないが、近寄りがたい集団で…  「…亜玖斗くんってさぁ…本当は、近隣の出身らしいんだけど…色々、黒い噂があるんだって…」  「例えば?」 俺は、間の抜けた口調でクラスメイト達の話しに加わる。  「えっ…秋芽。知らねぇ? オレも噂を聞いたけど、アイツの親のどっちかの金持ちとか政治家で…亜玖斗自身は、愛人の子供で隠し子とかって話し…」  「そうそう。それを探りに来た週刊誌の記者が、出版社に契約切られたとか荷担した社員が、干されて国外の僻地な場所に飛ばされたとかやつでしょ?」  「週刊誌のネタ?」  「マジな話しな…」  「へぇ……」 圧力で、揉み消される感じの…  でも、相変わらず。  顔はいいよな。  「おーい。顔が良いからって、惚れんなよぉ~っ!」  ドキッとした。  「はぁ? 俺だって、それぐらいの見境ぐらい付くっての!」  自分が、ゲイだとか…  同性が好きだとか隠している訳じゃないから。  茶化される事は、よくあることだし。  変な目で見られるのもは、今に始まったことじゃない。  まぁ…オープンにし過ぎて、若干引かれてる場合もあるけど…  全部。  気にしない事にしている。 だってさぁ…  「…自分の秘密なんって、ホントは、聞かれたくねぇーし。バラしたり。バラされくなねぇし? 俺の場合は、バレてるけど…秘密を隠さなきゃならないなら。隠せば良いって思うよ。だって他人が、無理矢理、聞き出したり探ったりするもんじゃねぇだろ?」  俺が、何気なく発した言葉を…  あの時。  亜玖斗は、聞いていた。  話し終わりに、何気なく。  目が合ったから…  話を、聞かれていたんだと気が付いた。  それから…  話し掛けても、大丈夫か? と軽く挨拶をするようになって、少しずつ話すようになった。  最初は、策り探り。  見掛けは、綺麗だけど…  やっぱりどこか、暗い所があったり。  今までで一番、驚いたのは…  実を言うと、今日の朝のことだった。  バスケ仲間と、少しキズだらけで登校してきたことに引くと言うよりも、本気で心配した。  本人に聞けば…  「ちょっとね…」って、返ってきたけど…  話によると、広場でバスケをしていて下が砂利なために何度か転けて出来たキズだとか…  ちょっとね…のキズを、それなりに消毒はしたと言っていたけど、本当に手当されてるのか微妙な感じだった。  世話なんって、やいてもいいのか微妙な感じもしたけど…  「勿体ない…」  「…えっ…」  「綺麗な顔にキズとか、勿体ない」  亜玖斗は、少し押し黙ってから…  「…綺麗?……」  「あっ、ワリー。キモいな。でも綺麗な顔は、本当なんだから。バスケって、テレビで見るとボールと一緒に突っ込んだりするじゃん。あれって怖くねぇーの?」  俺は、たまたま持ってた絆創膏を亜玖斗の顔にあるキズに貼った。  「…どうだろう。試合中は無我夢中だし…キズとか気にしてない方が、多いかなぁ……あの…」  「ん?」  「絆創膏、ありがとう」  「うん」  練習が終わって、家に帰ってから。 鏡を見て、キズが有ることに気が付いてはいたど…  キズは、気にしないようにしていた。  小さい頃から。  弱いとこ見せたくないって思えてて、弱味に気づかれた瞬間から付け込まれるって教えられてきたから。 人を信じた事なんって、一度もなかった。  周りも、信じられるだけの信用をくれなかった。  どうせこれからも、1人なら。 他人なんって、側に置いても何にもならない。  よく言うアレだ。  どうせ人なんって、裏切るに決まっているし。  自分にとって必要なことは、大体1人で考えてきた僕にとって…  人に取り入るとか、人に相談するとか…  どうやって話していいかも、全く分からなかった。  そんな状態で、よく生きてこれたと思う。  生意気にも、信じられるのは、自分だけだって節があったり。  気を抜くと変なヤツら ( 特に記者?) に目を付けられるしで、気を張ってないと自分自身もが、無関心な親に迷惑を掛かる。  まぁ…親に迷惑掛けたところで、何かが、変わるとかないし。  簡単に後処理してくれる力…って言うのか?  そう言う最強の盾ってのを、振りかざされていたから。そこは、恩みたいなモノを感じるけど…  実際は、お高い地位の自分達の生活を守るためだし。  僕は、その中でもどうだっていい存在で、それぐらいの方が、僕にとっては生きやすかった。  そんな僕に秋芽は、挨拶と言う名の声を掛けてきた。  最初は、無視した。  大抵はそれで、声なんって掛けてこなくなるから。  なのに…  秋芽は、違った。  懲りずに何度も、声を掛けてきてくれた。  人懐っこいとは、また違って…  気さくに普通に…  どこかの大人達とは違い。  別に何かを、企む素振りもしない。  その頃。  偶然僕は、秋芽が別な学校の男子と付き合っているらしいとの話を耳にした。  そしてその後、直ぐに他校の男子と仲良さげに歩いている秋芽の姿を見掛けてしまった。  『…自分の秘密なんって、ホントは、聞かれたくねぇーし。バラしたり。バラされくなねぇし? 俺の場合は、バレてるけど…秘密を隠さなきゃならないなら。隠せば良いって思うよ。だって他人が、無理矢理、聞き出したり探ったりするもんじゃねぇだろ?』  『そうだね』  仲の良さそうな男友達って言うよりも、凄く2人の距離感が近い。  寄り添ってるように見える。  あっ…  そう言う事なんだ…  噂では、聞いていた。  まぁ…  だからって言って…  気持ち悪いとか、そう言う嫌悪感って言うのは、感じなかった。  僕自身や周りを考えれば、異常なのは僕の方で、指摘されるよりも明らかだった。  何よりも、あんな風にお互いに笑いあえたりする日常が、心底羨ましいとさえ思えた。  人って…  友達や知り合いに向ける笑顔とは別に、自分にとっての特別な人に対して、あんなにも嬉しそうに笑えるんだと知った衝撃は何気にキツかった。  そして、あの笑顔が欲しいと思ってしまったんだ。  欲張り?  違う。  ほしい?  …とも少し違う。  いつの間にか教室で、声を掛けてくれるのを、待つようになった。  どんなヤツらに、笑顔を向けられても…  その笑顔とは違う。  あの柔らかい笑顔じゃなきゃダメなんだと…  思いが、強くなった。  何だろう…  この気持ちは?  もしかして…  これが、欲?  あぁ…そうか…  欲張りも、欲しいも同じだなんだ。  それから。  また少ししてから……か?  秋芽が、その他校のヤツに振られたとか、聞いたの…  良かったと、心底ホッとした。  …って、良かった。  何が?  別れたことに僕は、ホッとしているのか?  何で?  それが、好きって意味なのか、まだ分からなくて無意識に僕にも、あんな風に柔らかく笑ってもらいたいって欲を、改めて感じた。  僕にだけ笑ってくれないかな…って、本気で思ってたし。  そう願った。  その辺りからだったと思う。  人知れず。  秋芽を、気にし出すようになったのは、ただ僕と秋芽は同じ学校で同じ学年だけど…  全てに置いて違うって言うか、接点が無さすぎた。  まぁ…接点、云々の前に難有りなこの性格。  無愛想。  カーッとなりやすいなど…  おそらく気の利かない親族達からの自衛で培ったものが、邪魔をしてきて素直さが、足りないとか自業自得過ぎて呆れた。  それに秋芽が、最初声を掛けてくれた理由が、この顔だからって言うのは知っていたけど、他人からあからさまに指摘されたりするのは、ムカついた。  あぁ…僕の取り柄は、この顔だけ… そうでもなければ、秋芽が声を掛けてくれる事も、なかったはずだ。  普通に腹が立ったし。  お前らが、指摘すんな!  ふざけんなとも思った。  お前も、一緒なのかよって…  だから。  最初の頃は、不貞腐れてた。  でもそれが、お互いを知る手立てだったのもホントで…  誰よりも、優位に立ちたくて、この顔で近寄った。  優位に立てる自信はあったから。  挨拶されたら。  挨拶を、返せばいい。  最初はそれだけを、繰り返そうと注意深くなった。  さて…  この顔で本当に釣れるかな?  大きな賭けだった。  試合の相手チームを、どう崩すかと考えるよりも、難しかった。  それは、もしかしたら。  秋芽の方も、同じだったのかも知れない。  それからは、当たり前のように話す様になってクラスの連中と遊んだり。  何かの拍子で、2人で出掛けるってなったときは、人知れず興奮して気持ち的に舞い上がっていた。  ヤロー同士で出掛けるのは、僕的に言えば普通の事だったけど…  秋芽にとっては、どう言う気持ちだったのか…  ただの遊び友達との気晴らしか、気になるヤツとの疑似デートか…  僕には、分かりかねないけど…  ずっとこっちが、勘違いしそうになるような柔らかい笑顔を、僕に向けてくれていた。  その柔らかさは、未だに続いていて…  このまま勘違いを続けていいのか、それとも正直に好かれていると思っていいのか、ハッキリ言って迷っていると言うか、悩んでいる。  直接、聞くか?  いやいや。  そんな度胸…  ねぇーし。  だから。  さっきから壁に寄りかかって、項垂れてる。  「…亜玖斗! 聞いてる?」  「……ん?………」  ボケっとした亜玖斗の顔が、酷く慌てた様にも見えた。  「って、なに?」  俺は、呼び出された理由を探す。  こちらの気持ち的に言えば、近くに居たいからついてきたとは、言える訳もなく。  亜玖斗が、自分から少し話そうって言ってきたけど…  何の用だろう?  この間、遊んだばっかだし。  映画も…見たばっかりで、互いに見たい映画の新作公開は、まだ先だ。  それにしても、どっからどう見ても、綺麗な顔してる。  キラキラして見えるのは、俺ビジョンだからか?  あぁ…  告白してぇーっ !!  アレ?  でも亜玖斗は、俺がゲイだって知ってるのか?  知らずに、告白したら引かねぇ?  いや…  引くよな?  困るよな?  「……~がっ?」  「…………」  「秋芽どうしたの?」  「へっ…」  焦った。  呼ぶ声の方に顔を向けると、亜玖斗の顔が近くにあって…  かなり仰け反った。  「なに? どうかした?」  何度も見ても、見飽きない。  綺麗な顔立ち。  好きになるなって、言う方に無理がある。  どこまで、顔を近付けたら顔を反らすかな?  そんな考えが、浮かんだ。  頭では、分かっている。  でも、身体が勝手に動く。  掴んだ腕は、離したくない。  亜玖斗が、俺の目から視線を反らさない限り。  近付けるならと、鼻先まで近付けた感覚で言えば亜玖斗は、逃げなかった。  逃げてくれれば、嘘で済むかもなのに…  このまま逃げないのならと、その動きを止めるようにキスした。 唇の感触は思っていたよりも、柔らかくて…  クラっと、目眩を起こしそうになる。  本当に人間の欲って…  コエーッなぁ…  止まらないって風でもないけど、高ぶり出す前の気持ちは、なるようになってしまえだ。  欲のまま。  亜玖斗を、独占したくて…  もう一度キスをする。  バランスを崩して、踊場の壁に押さえ込む形になってしまった。  そうやって突然、キスされて…  「…嫌なら。殴っていいよ…」  そう囁かれた息みたいな声は、一瞬で身体を熱くした。  申し訳なさそうな秋芽の口元とサラリたした髪が、西日に反射して…  その横顔にドキッとして、思わず見惚れた。  顔は多分。  赤くもあり。  熱かった。  どうしていいか分からなくて、おかしくなるぐらいドキドキする胸に手を置きながら。  心配げに見詰めてくる秋芽の表情を見詰め返した。  いつも通りの柔らかくて優しい顔。 重なった唇同士が熱くて、溶けそうな感覚に自分の気持ちをどこに持っていけばいいのか、戸惑っている。  勿論。  嫌だとか、そう言う感情はなくて… やっぱり嬉しいとさえ思っている自分が居た。  そう言えば、クラスの女子が言ってたっけ。  “ アイツが、アンタに惚れてるか、どうかは置いといて…アンタみたいな顔のヤツが、好きなんだと思うよ ”  その言葉を、覚えていたから。  なんだか妙に納得してしまった。  「…あの…用事が、有るから…」 かなりテンパってた。  「何で? 避けなかったの?」 そう言うこと、真顔で聞くか? ったく。  「亜玖斗?」  「そんな事…聞くかよ。普通 !! 察しろ。アホ!」  「へぇ……?」  秋芽の身体を押し避けるように西日で、オレンジ色が眩しい屋上に通じる階段を、一気に掛け降りたせいのドキドキか、キスされた事へのドキドキか… 分からない程に息苦しかった。  滅多なことじゃ息なんって、上がったこともないのに…  そっか、息が上がってるんじゃなくて動揺してるんだ…  秋芽と居ると、物凄く落ち着く。  こんな僕でも、温かくなれて居心地が良くて、いつも長く居てしまう。  でも、どんなに近くに居ても、 側に居ても、秋芽と僕は付き合っていない。  ただ。  一緒に居る事が多い。  好きだから一緒に居るのか…  友達として、割り切れる事なのか…  本当に僕を、好きなのか、  いや…  キスしてくるぐらいだから。  好きなのかなぁ…  そうなると僕は、どうなんだろ?  ドコまで秋芽を好きなのか、分からない。  同じ好きなのか?  いつからか、あの居心地の良さに甘えたくなった…  明るくて話しやすい雰囲気の秋芽は、人気とか人望って言うのかなぁ…  コミュ力高いのも、魅力の1つで容姿は、自分から平凡だとか言うけど、あの身長なら秋芽の方が高いし羨ましい。  サッパリとした性格だし。  僕みたいな得体の知れない顔だけのヤツよりも、よっぽどましだと思う。  最終的にモテるのは、秋芽みたいなヤツだよ。  で…僕は、その人に…  キスされた。  それも、2回も。  告白されてもない状態で、キス?  えっ…と、これは、  怒った方が、良かったのか?  嫌なら殴ってくれ、みたいなこと言われたけど…  秋芽のことは、嫌じゃないから。  どうすれば、良かったとか考えると胸がザワザワする。  いや…でも…  あっ……これが、好きって事か…  僕は、秋芽が好きなんだね。  何もかもが、初めてな感覚で僕にとっては、今までの照れくさかったことを、色々と思い出してしまい。  再び、顔が熱を帯び始める。  どうしよう。  心臓がバクバクして、ちっとも落ち着かない。  学校も、放課後ってこともあり少しうるさいような気もするけど…  まぁいい…  息を整え壁にもたれる僕の耳にバタバタと掛けてくる足音が、響いた。  「 亜玖斗! 良かったまだ帰ってなくて !!」  突然、名前を呼ばれ我に返るように振り向くと、バスケの練習で無理をするタイプのために生傷が絶えた事がない友達が、声を張り上げていた。  同学年で、バスケ部とは違って独自の愛好会と言う特殊なチームを作って、学校の内外で活躍している1人だ。  僕は、部外者だけど…  何って言うか…  運動神経だけを、宛にされた予備の援軍に近い…  このチームには、揃えられたユニホーム類は、無いから学校指定のジャージだったり普段着に近いジャージを着て他校や一般の人達に混じり対戦をしている。  確か先輩達が、この間、他校のバスケ部内で作ったチームとの試合を中庭のコートでするから早く申請が、通らないかってブツブツ言ってたなぁ… で、許可が下りたんだ。  「えっ! てか、亜玖斗なんでヨレヨレ?」  「色々…あって…で。何?」(疲)  「今、亜玖斗は、時間大丈夫だったりする?」  夕飯の買い物には、まだ時間があるから大丈夫だけど…  「うん。少しなら…」  「良かった。メンバーの人が昼休みにケガして試合に出れなくて…」  ん? いやいや。  他にメンバー10人位居なかった?  「どうしても、勝ちたい相手なんだって! 頼むよ!」  元々、どの部活にも属してないからなぁ…  暇って言えば、暇だけど…  「ね!頼む。1試合だけでいいから」  ここまで、頼み込まれると断れない。  「分かった。1試合だけなら」  その頃、屋上の階段では、取り残された屋上に通じる階段の踊場で、1人身悶えていた俺が居た。  俺…やっちまった。  ってか、亜玖斗も避けろよ!  逃げろよ!  いくら亜玖斗でも、殴られたくねぇーけど…  殴られても、仕方がないことしたんだよ俺は !!  ……その前に告ってないのに、すんっなって…話しだけど…  でも、あんな風になったら止められる分けねぇーじゃん!  俺は、亜玖斗が好きなんだ。  特別なんだよ。  って、分かっているのに…  ヤバい。  どうする?  …ここまで、やらかすとは、考えてなかった。  今までにも、付き合ってきたヤツもいたし不意打ち的なぁ~~のは…  まぁ~っ…あったけど…  それは、付き合って居たからで…  今のは、不味い。  非常にか・な・り不味い。  こんな事すっから。  俺は、遊んでいそうとか言われんだよ !!  付き合ってもない相手に、不意打ちキス ( 図に乗って2回 ) は、ヤバい。  しかも2回目は、壁に押し付けたみたいになってる。舌を入れなかったとはいえ。  さすがに…  これは、事故やゴメンで済まねぇーだろ?  落ち着いて考えれば、考える程。  自己嫌悪と言うか、何してんだよって、自分で自分を殴りたくなる。  これが、惚れた側の弱みなら俺は、相当なアホだ…  ガックリと肩を落とし階段を降り始める。  すると、下の方から男女の話し声が聞こえてきた。  「なっ! ここに居たしょ」  「本当だわ。って、何か落ち込んでない?」  この二人は、一応俺と亜玖斗のクラスメイトで、俺とは同じ中学からの友達としての付き合いも、それなりに長い。  二人ともいち早く俺の恋愛観? を理解してくれた以降は、助言やら苦言やら説教をしてくれる有難い存在達だ。  「で、どうしたのよ? デカイ図体のヤツがトボトボと…キショい」  俺は、鈍よりとした顔を上げる。  「本当にどうした? この世の終わりみたいな顔してさぁ…」  「やらかした…」  「何を?」  二人は、俺を挟むように立つ。  「…その亜久斗に…キスした」  そんなカミングアウトに二人は、顔を見合わせた。  「えっ、キスだけで、止められたの?」  「おーっ! 節操無いお前にしては、珍しいじゃん」  節操無いって……  「人をケダモノのように言うな!」  「顔と容姿が好みなら。取り敢えず付き合っちゃえ、ヤっちゃえって言うなようなアンタにしては、ってことよ」  「それとも、その場の流れに乗っかって…とか動物並みの本能とでも、言うのか?」  その場の流れは、かなり責任を感じている。  でも、動物並みの本能って俺のキャラ設定は、やっぱりヤバいのか?  「なぁ…秋芽。落ち込む程、大事な獲物=亜玖斗なら。もっと大事にしろよ。逃すなよ」  獲物って…  俺に対して、何かこう悪意が込められてるような気配が…  「いや…だから。俺は、亜久斗と真面目に付き合いたいんだよ。けど、俺ずっとこんなんだったし…どう告るのか、付き合うとか、分かんなくて…いつも流れで、何となく付き合ってきたみたいな…出会いばっかでさぁ…」  「…それは、アンタが遊び慣れしてそうな軽そうなイメージだからで、相手もそんな付き合いを求めているからよ。次いでにアンタのカレシが、途切れないのは、決してモテるとかじゃなくて…チャラいからよ。分かった?…モテとチャラそうは違うのよ」  「………ちょ…えっ……」  「何に対して、衝撃受けてんの?」  「あの…さぁ、俺、亜玖斗が好きだって自覚してから。他の誰とも、付き合ってもねえーし。そねシてねぇーから」  「えっ…マジ? 半年間もか!」  「じゃ…噂の年上カレシと甘々な年下カレシ達の同時進行とは、スッパリと別れてたのね」  「最初少し被っていたけど、同時進行じゃねぇーよ !!」  二人は、声を揃えて元カレ達の話しを蒸し返す。  そう言うのがあるから。  信用ないのか…  俺は、恋愛そのものが、その場の勢いとかそんな感じで今までで来たから。  本気の好きを、どう扱っていいのか分からない。  「なるほどね」  放課後に恋愛相談なんって、今までの俺とは、思えない。  「中学からの仲だけど、やっとお前、改心したんだな。もう取っ替え引っ替えと来るもの拒まずも、止めろよマジで!」  「恋とか愛の力って、偉大ね…で ? 亜久斗くんは、アンタにとってどう言う存在なわけ」  「…大事だよ。何か終始一緒に居るからか、俺と付き合ってるらしいとか噂話になってるとか、聞くけど、まだ付き合ってねぇーし。俺と違って亜玖斗は、そんな軽いヤツじゃない」  亜玖斗の事は、大事にしたい。  側に居てほしい…  それは、嘘じゃない。  「うっわぁ~っちょっと、最低な男が、急にピュア化したわよ!」  「良かった。良かった!」  うん。  何を真剣に言っても、悪意にしか聞こえん。  まぁ…  スミマセンね。  今まで、異常恋愛してて…  「で、何しに来たんだよ。俺の恋愛相談しに来たわけじゃないだろ?」  二人の目が、ランランと輝く。  「そうそう、俺らが来たのは」  「そっ! 亜玖斗くん。今助っ人でバスケの試合に出てるの !!」  間近で見ようと、階段を掛け降りようとする俺に…  「行っても無駄。遠目でしか見えんしギャラリーっての? 居すぎて近付けねぇよ」  「へっ?」  「だから。屋上に来たのよ…」  「確かに、ここからの方が、試合もよく見えそうだな」  「我が校の特等席よね」  「……………」  何って言うか、亜玖斗は黙って居れば美形キャラだ。  無口って程でもないけど、微動だにせず黙って居ればモテそうだ。  本当に…  目付きが、  たまに…  異様に…  かなり…  悪い時がある。  何気なく呼び止めた同級生が、振り返り様の亜玖斗と目が合い。  その眼光の鋭さからかフリーズしたと言う。  校舎に面した中庭のコートには、バスケ愛好会なのか、スポーツ愛好会的なクラブなのか…  連中が設置したバスケットゴールがある。  そこで愛好会のメンバーは、他校にある似たような連中を呼び試合をしていると言う訳だ。  「どこだ?」  「アレよ。1人制服で、シャツの子」  パスされたボールを受け取り、相手の動きを素早くかわす度、沸き起こる歓声。  フェイントを掛けながら振り返り。  高くこうを画くように放たれたボールは…  真っ直ぐにゴールへと吸い込まれ。  本日一番の歓声が、沸き起こる。  「やっぱり。カッケーな亜玖斗」  「そうね」  周りのコートを取り囲む女子の悲鳴にも似た大歓声に少し?  いや、かなりイラついた。  「俺も、キャー。キャー。言いたい。言えるものなら。今ここで叫びてぇ…」  「珍しく重症だな…」  「秋芽が、触りた過ぎる欲求で、キスして厚かましく壁に押し付けちゃったぐらいだものね。まぁ…素行は悪くはないけど、色々噂が絶えない子って感じ? スポーツは見ての通りの万能型、走っても速いし。俊敏で無駄のない動きと、あの顔あの容姿…そりゃキャーッ。キャーッ。言われるわよね」  誰かが、亜玖斗を見ているって思うだけで、このイラつき。  よくさぁ…  見てるだけで、気持ちの奥がザワ付くとか…  ずっと落ち着かないとか、  自分でも気付いていないうちに目で追うとか、  それこそ…っな話しあるかって、バカにしてた…  でも、亜久斗を見てると何か全然、落ち着かなくて、姿が見えなくなると、つい目で捜してる。  アイツを通して俺の方が、バカだったと思い知らされた。  笛の音で、試合が終わり。亜久斗のチームが勝ったと、偉い騒ぎとなった。  特に女子達の悲鳴混じりの歓声は、聞いていて耳が痛い。  やっぱりそれだけ亜玖斗は、モテるって事だ。  しばらく即席のチームメイト達と喜んだ後、亜久斗は、俺の居る屋上を見上げて、何気にフンワリと笑み軽く手を振った。  無自覚に柔らかく…  気付いてたのかと言う気持ちよりも、アイツが勝った事の方が嬉しくて、つい俺も手を軽く振り替えしてしまった。  いわゆる。  こちらも無自覚に…  あぁ、良かった。  あの顔は、怒ってないみたいだ。  アイツの性格上。  仮に怒ってたら笑って、手を振ってくれるはずがない。  そう思えるのは、俺の驕りかな?  「…なぁ…」  「ん?」  「何か、一瞬にして視線が集まってない! アンタに……」  「えっ…?」  何かのスポーツの歓声か? と言う程の地の底から沸き上がる歓声が、校舎内を驚愕さる。  「スッゴ、こんな歓喜な悲鳴、初めて聞いたかも?(笑)」  「まぁ…中には、アンタと亜玖斗くんの噂も有る中でのこの流れよ。やっぱりって、感じよね」  「挨拶されたら。挨拶を、返すだろ?」  「律儀なバカね…」  「はぁ ?!」  「良い? 校内一のチャラなモブ男と校内一美形で、スポーツ万能で親が大物かもと噂の亜玖斗くん。付き合って居るんじゃないのか的な話が、あるけど…微妙な距離感で…この手の話が好きって連中は、これだけで、飯が食えるわ! 歓喜なる悲鳴よ。まぁ…中には亜玖斗くんを、取らないでぇ〜っ、的な悲鳴もあるんだろうけど…」  「このチャラなモブ男の最低ヤロー。私達の亜久斗くんを取らないでぇ~っか? 敵の数も半端なそうだなぁ~っ」(笑)  「ってか、好きなヤツに手を振られたから。振り替えしただけど…」  「ねぇ~。アンタら付き合っちゃえば?」  「簡単に言うな !!」  って、鳴り止まねぇーな。  この歓声。  って、亜玖斗は大丈夫か?  アイツこう言う感じ苦手じゃ…  手摺から身を乗り出すと、フリーズしかけで、今にもキョどりそうなアイツが居た。  ガヤガヤとした声が、雑音みたいで妙に何だか怖くなった。  「あの…さぁ…これ歓声? 悲鳴?」  僕は、やっと声を振り絞った。  「…あれじゃねぇ? 噂になってた事が、事実っぽく見えたからだろ?」  噂って?  「なんか、自然な距離感? お似合いっぽくも見えるよな…二人のやり取りみたいな?」  「クラスの女子連中も、仲が良いってよく言ってるし」  「今日だって…昼休みや放課後、俺が、行くまで話し込んでたんだろ?」  甦るキスした記憶と、触れた唇の感触と息遣い。  思考が、グルグルした。  思わず僕は、その場で下を向いて動けなくなる。  「 亜久斗、大丈夫?」  ヤバイ。  顔が、熱い。  試合に勝ったよりも、赤面したままじゃ顔が上げられない。  一段と強くなる心臓の音が、落ち着いてくれない。  ざわめき同士が重なると耳鳴りのような感覚に陥る。  無音?  とは、違う。  でも、なんか…  やけに周りが、静かになったような… 顔を僅かに上げると、見慣れたスニーカーが、僕の前で立ち止まった。  それと同時に誰かのタオルが、頭からスッポリと掛けられると僕は、そのスニーカーの主によって抱きかかえられた。  「秋芽 ?!」  歓声が、歓喜な悲鳴に変わっていく。  語彙力不足で、えっ、なんで、しか出てこない。  「もう、連れてっていい?」  「あっ、ハイ。どうぞ」  これが、たまに話題になる?  お姫様抱っこ?  「じゃなくて、秋芽 !!」  「タオル。被っとけ…」と耳元で囁かれる。  「じゃ!」  周りは、見れないし…  後ろは、振り向けないし…  秋芽の顔は、もっと無理だし…  こんな退場の仕方、絶対に付き合ってるとか、思われるだろ?  抱きかかえられて、添えられた手に力が込められてる感覚がある。  「取り敢えず。降ろしてって!!」  「…………」  本当に取り敢えず。  門の外で、やっと降ろしてくれたけど…  どう言うつもりだよ?  男を、お姫様抱っこって…  誰に見せ付けるんだよ。  そんな僕の問いに秋芽は、牽制とだけ答えて夕飯の買い物に付き合ってくれると、約束してくれた。  その日の深夜頃の話しだ。  何が、あってこの状況に繋がるんだ?  どうして亜玖斗は、俺の隣でスヤスヤと…  いや…なんで当然の様に腕枕で寝ているんだ?  そもそも…  腕枕なんってした覚えがない。  一緒に寝た (雑魚寝) した記憶もない!  確か…  校庭から亜玖斗を、お姫様抱っこで連れてきて…  色々あって、買い出しに付き合うよってなって…  えっと、それから…  国道を渡ろうとしたら急に信号機が、暗転したまま車も歩行者も動けなくなって…  程なくして、警察官が到着。  亜玖斗も俺も、様子を伺っていると。  送電線だか、鉄塔? 変電所とか、2ヵ所同時の落雷で、送電がストップ。  大規模停電になってるとか…  なんとか…  警察官達の的確な指示に従い誘導されるまま歩いて来たが、大規模停電と言うことは電車は、勿論ストップ。  停電による交通障害でバスは、遅延か、運休。  それでもバス亭には、長蛇の列。  その様子は、今日中に自宅に着けそうもないレベルで、そんな人の列を眺めながらボッケっと突っ立ってる俺を、亜玖斗は自宅アパートにと呼んでくれた。  時間も、6時半過ぎってよりも7時ごろと言ってもおかしくない時間帯だった。  隣の市から電車とバスを乗り継いで高校に通う俺としては、有りがたいが…  あの通り。 魔が差したと言うか、やらかしたと言うか…  1回キスして、亜玖斗が逃げていかない事を良いことに、もう1回キスして屋上階段の踊場の壁に押し付けたのは、不味かったよな?  って何を…  走馬灯みたいに、思い起こしてんだよ俺は !!  しかも非常時とはいえ…  俺1人で、部屋に行くとか…  友達で押し掛けた事は、何度かあるけど…(数えた程度)  今日は、俺1人。  「…………………」  なんも、期待してねぇけど…  どこかで、否応なしに期待している自分が居る。  「どうかした?」  「? …何でもない」  「そう」  顔も容姿も整っていると言うよりも、その辺にいる女子よりも遥かに綺麗だし。  スポーツも、出来る。  成績も、そこそこだって聞くし。  入学した頃から。  目立ってたしなぁ…  同じクラスで、ラッキー的な?  でもまぁ…俺は、こんなんだし。  亜玖斗とは、縁が薄そうで…  それでも、ずっと見ていたい感情は、消せなくて…  ずっと、気になって…  ずっと、モヤモヤしたままで…  まぁ…最初から亜玖斗にマジ惚れしてたんだと思う。  最初は、喋られる友達ぐらいでと、軽く思ったけど亜玖斗のあの見た目。  “ あぁ…これは、出遅れたらダメなやつだ ” と、悟ってからの行動は早かった。  その日の内に、  普通に告ろうと思い付たけど…  中々、事が思い通りに、運ぶはずもなく。  一言でもと、声を掛けるのに徹した。  それぐらいなら変に思われないだろう。  でも、最初は…目も合わないぐらいで…  挨拶なのに…「うん…」 って、流されただけで、無視された訳でもなさそうだったから。  それからは、朝に休み時間に話し掛けた。  いつの間にか、昼休み皆で飯食ったり。  たまに仲間うちで遊んだり。  2人して出掛けた事もある。  ( まぁ…特に何もなかったけど…)  そんな状態が、続いてて今日の放課後に繋がる…  取り敢えず。  平常心で…  とは思ったけど…  俺の存在や恋愛観を噂で知っているはずと言われてる亜玖斗の本心が知りたい。  結構、打ち解けてきている気がするけど…  本心が見えてこないのは、やっぱり。  その複雑だと噂されている生い立ちが原因だっりするからか?  俺も、何となく知っているぐらい。  亜玖斗のことは、気になるけど俺が、詮索していい訳じゃねぇし。  これが、亜玖斗の秘密なんだと思っているから。  無理矢理本人の口からなんって、聞こうとは思ってない。  ただ…  亜玖斗の家は、かなり複雑で…  揉み消し必須の噂話で、自分の世話をしてくれる家政婦さんのような人が、たまに出入りするだけで…  借りている部屋には、母親も居なければ、父親も居ない。  確かに見たことは、一度もない。 家政婦さんらしい人とは、何度か会ったかなぁ?  それぐらい。  そんな噂で言う。  亜玖斗の親は、世間一般で言う所の名のある人と、その愛人の間に生まれた子とかで…?  亜玖斗は、産まれてこの方、一度だって名前も姿も、公表されていないらしい。  世に出回ったら。  出した人間を特定した上で…  …何タラかんタラ…  所謂、暗黙の了解と言うやつらしく。  母親もまた身を、隠すように姿を現さない。  一説によると、金を掴まされ国外に居て自由な暮しを、満喫してるとか…  亜玖斗のあの容姿だから。  大物芸能人なんじゃないかとか…  その一方で、父方は一応と言う形で亜玖斗を認知して支援を受けさせているが…  正妻さん側は、亜玖斗を認めたくないらしく。  家に入れない事、親子とは名乗らない事、親族として関わらない事が認知の条件で…  日々の平穏を、約束されているらしい。  …とか…  まぁ…  何って言うか、そう言う。  ざっくりとした所説がある。  で…  これも…  腕枕には、関係ない。  落雷で、大規模停電で電車は、ストップ。  バスは遅延、運休。  帰れそうもない俺を、亜玖斗が善意で部屋に泊めてくれることになって…  それは、さっきも言ったし散々…世話をやかれた。  仮にそれが、本当だとしても…  亜玖斗は、亜玖斗だ。  ダメだ。  思考が、明後日を向こうとしている。  停電が、分かって即自宅に居るはずの家族に電話したが…  スマホの回線がパンクしてか、一度も繋がらず。  亜玖斗の助言で、メッセージなら繋がるんじゃないかと言われ。  今日は、亜玖斗の部屋に泊まる事になったからと、メッセージを送ると、了解。と言うスタンプが送られてきた。   ( ウチの親は、俺が亜玖斗を好きだって、知ってるし。世話をやかれてるのも、承知してるらしい )  ナゼ。  バレてるかは、疑問だけど…  部屋に泊めてもらえる事になり。 泊まるのに必要なモノを、買い揃えるためにと亜玖斗が、よく利用している近所のスーパーに立ち寄った。  元々、そこで買い出しをする予定で、俺も立ち寄ると言った場所だけど…  「衣料品も売ってる。スーパーって、珍しくないか ?」  「まぁ…この辺り、単身者向けの部屋とかウィクリーマンションが多いから。需要が有るんだって、店長さんの奥さんから聞いた」  「本当に神だよ。このスーパー」 亜玖斗は、クスクスと笑った。  うん。  この笑った顔が、一番好きだなぁ…って、見下ろす俺の姿が、亜玖斗からすれば、どんな風に見えているとか…  気にならないはずがない。  「秋芽は、何か食べたい物とか…ある? お惣菜が、半額らしいから」  「えっと、メンチとエビフライ…」  分かった。と、パックを手に取り買い物カゴを手にレジに向かう。  カゴ中には、同じエビ料理でも海老チリと春巻が入れてある。  そう言えば、こってりした系の味が好きだとか言っていたけど…  中華風も、食べるんだ。 って言うか、中華が好きなのかも知れない……って、  「亜玖斗。ここは、俺が払う! 一宿一飯…ニ飯になるかもな、お礼だ…」  キョトンとした亜玖斗だったが、ありがとうと言い。  俺の後ろに、亜玖斗は並んだ。  「ご飯は、市販のレンチンをお湯で温めれば食べられるし…」  「停電時って、お湯出るの?」  「出ないんじゃないかな? 給湯器って電子機器だし。全部かは分からないけどね。…それでも、僕の部屋のガスコンロは、着火が電池式だから。お湯は沸かせれるよ」  そんな事を言いながら。  亜玖斗の部屋があるアパートに向かって、歩き出した。  「今が、夏場近くて幸いしたな…これが冬場だったらと思うと、ゾッとする…」  「そうだね。でも、雲行きが怪しくなってきたし風も若干冷たくなってきたから雨が、降るかもよ」  確かに吹き付ける風が、ひんやりしてきた。  「なぁ…もしかして、落雷って…ゲリラ豪雨的なやつが来て?」  「…かも。落雷さぁ…送電線と変電所に落ちたらしいよ。ニュースになってる…ホラ」  亜玖斗のスマホを覗く。  「ねっ…」  「ホントだ」  確かに遠くで、雷鳴がなっているようにも聞こえる程に、どんよりとした分厚く重苦し雲が立ち込めている。  「この季節でこの時間は、まだ明るいし。この暗さは、不気味だね」  そう言い合いながら。亜玖斗の部屋に辿り着いた。  出されたスリッパを履き亜玖斗の後ろを付いていく。  部屋の作りは、1DK。  キッチンや水回りを抜けた先が、亜玖斗の部屋と言う作りで…  何って言えばいい?  今の俺…大丈夫か?  亜玖斗と、一緒に朝まで…  ここは、気を引き締めて!  何を、奮い立たせてるんだよ。  俺は!  もっと、こう冷静に…  無心で…  「秋芽は、適当に座ってて…」  「あっ…うん」  亜玖斗の部屋には、テレビがない。  理由は…  「動画は、好きなんだけど…テレビは、好きじゃないから。昔からラジオ派…」  亜玖斗の話だと、ローカルのラジオ放送の他にこの町では、タウンラジオも放送されているそうで、気分によって局を、かえているそうだ。  ただ…  「今日は、天候のせいか入りが悪いね。AMの方が良いかも…」  慣れた手付きで周波数を合わせると… ラジオ局のアナウンサーらしき人の声が、停電がまだ続いていることや、これか局地的に大雨が降るおそれがあることを、伝えてくれた。  「そう言えば秋芽は、スマホの充電大丈夫そう?」  「あぁ…半分くらいかな?」  「半分 ? なら無くなりそうな時は、言ってね。モバイルバッテリーとかあるから」  「うん。分かった…」  言えない。  何で、スマホの充電が半分以下なのか…  理由は、簡単。  屋上から…  亜玖斗の試合を、写真や動画で撮っていたとか…  口が裂けても、言えない。  ここだけの話し。  俺のスマホの写真や動画の被写体が、略亜玖斗とか…  マジで、もっと言えない。  「あっ…秋芽ちょっといい?」  「えっ!」  「何…えって?」  「いや別に…で、なに?」  「やっぱりお湯は、出ないらしいから。水しか出ないっぽい」  「大丈夫。水が、出るだけマシじゃねぇ? 夏場近いし。この気温なら。網戸開けて過ごせなくもない。泊まらせてくれるだけで、ホントに助かる…」  「そうなの?」  あのまま自分の仕出かした事に対して不貞腐れて、帰らなくてよかった。  「それにしても、あの近所のスーパーの店員さん達。いい人達だな…」  「そりゃ…一日置きに買い物に行ってるし。今日も、帰りに行くはずだったから。これでも、一応常連さんなんで…それに、あそこは個人商店だから開いてると思ってたから焦らずに居られた」  「でも、個人商店ならこう言うイレギュラーな出来事って、ヤバいだろ? 生鮮食品とかさぁ…」  「まぁ…確かに、個人経営らしいけど、あれだけの店舗だから。店直結の大型の冷蔵庫や冷凍庫。仕入れに遣うマイナス20度以下を維持できる冷凍車も有るから平気だって言ってたよ。明日の朝までならギリなんとかなるってさぁ…」  「そっか」  …そっか、じゃねぇよ。  何って言うか…  放課後、略無理矢理キスしてきたヤツが隣にいるって状況で、部屋に招くとか…  いや…  不足の事態で、親切心だって事は、分かるけど…  警戒してるように見えない。  無防備じゃねぇ?  「僕これから。夕飯の準備するから水しか出ないけど、水のシャワーで…大丈夫なら浴びてもらって良いし。タオルや部屋着なら貸すし。ちょっと待ってて…」  うすぐらい部屋の中をスマホのライトを頼りにラックからTシャツと短パンを取り出し…  俺に押し付ける様に差し出して… つまずいて…俺の腕を掴んだ。  「あっ…ゴメン! 薄暗くて…」  「あぁぁ…うん。あの…ありがとう。えっと…じゃシワーでも…」  「どうぞ……」  ぜってぇーっ亜玖斗も、気まずいって思ってるだろ?  亜玖斗は、俺にキスされた側だし。  警戒してるに決まってる。  俺は、これ以上何かをやらかさないように…  気を付けよう。  そうだ!  この水のシャワーを、おもいっきり頭から被って、冷却させて…  とも、思ったけど…  サッパリと汗が引いたくらいで、邪な考えが、俺みたいな低俗なヤツが、水を浴びても効果なんってなかった。  「大丈夫だった?」  「あっ…うん」  普段から髪をドライヤーで、乾かす事なんってしてないから貸してもらったタオルで、頭を軽く拭いた。  座卓のテーブルには、キャンプみたいにロウソクが立てられ懐中電灯も棚の上に置かれていた。  座卓のテーブルの中央には、丁寧に大皿に盛られた惣菜に小皿等が、並べられていた。  なんかキャンプみたいだね? 何って、考えることは同じで吹き出したり。  たわいもない話をしたり。  付けてるラジオの音楽とか、アナウンサーさんの軽快な口調に少し聞き入った。  電気こそ点いていないけど…  きっと、亜玖斗はこうやって…  毎日飯食ってるんだよなぁ…とか、思った。  一緒に後片付けしてから出された課題を解いたり。  その間、雨は強くなったり。  弱くなったり。  止んだり。  時折、聞こえる雷鳴は遠く過ぎて聞き逃す感じで、そこまで心配しなくても平気か? 何って考えてたら。  急に…   “ 寝る前に、シャワーでも浴びてくるよ… ”  何って言い出すから。ワタワタしながらスマホで、音楽再生してイヤフォンを両耳に突っ込んだ。  シ…シャワーの音とか…  マズイだろ?  何か、ぶっ飛んだら。  2人しか居ないんだぞ? 誰にも、止められないだろ !!  平常心と、言い聞かせて意味もなくスマホを眺める図とか…  滑稽だよな…  好きなヤツの部屋に行ける。 入れる。  だけじゃなくて…  泊まれる…とか?  喜びたいけど、喜んだりしてるのがバレたらお仕舞いだ。  で、風呂から出て来て、お互いに寝る場所の事で、若干もめて…  理由は、客 ( 俺 ) を、床で寝かせるのは、申し訳ないとか…  で、亜玖斗が、自分で床で寝るってきかなくて…  で、俺も俺で、床で寝るから。  …と、引かず。  らちが明かずで…  お前は、自分のベッドで寝ろって突き放して…  俺1人が、床に寝てたはず…  薄目開けて座卓のテーブル越しに亜玖斗を見てたら申し訳なさそうに自分のベッドに横になって  「おやすみ…」って声を掛けてくれたのを見届けて、俺もそのまま床に寝たはず。  暗い室内で、スマホで時間を確認すると深夜2時頃。  耳を澄ますしても、外からは何も聞こえない。  何となく。  まだ遠くで、雷鳴のようなものが聞こえていて…  近距離からは、亜玖斗の寝息って…  えぇ……っと、  これは、なんの試練だ?  無意識に擦寄ってくる亜玖斗自身が、いつ俺に気付くとかの前に、この無駄に座り肌触りが良い床のラグの隅に追いやられ…  座卓のテーブルの脚のようなモノが、背中が当たった。  俺、逃場を失った?  ちょっと、待ってくれ…  俺の中で、本能と言うか理性と言うか、そのどちらでもない何かが、またせめぎ合い出して…  本能を、理性で押さえているのか? 理性で、本能を押さえているのか?…  いや…  そもそも、理性も本能も同じ…じゃねぇ?  これらを、押さえるのは…  俺の意志?  それとも、こっちの言葉の意思か?  あっ、  このせめぎ合いが、自制心って事か?  いやいや、何に納得してんだよ。  最初、俺も、半分寝ぼけてたからアレだけど、よく見たら亜玖斗のヤツ。  俺のTシャツ掴んで、擦寄ってきてねぇ?  何で…  こうなった?  もしかして…  目が覚めたかで、寝惚けて床に来た?  寝る前に散々、自分が床で寝る! って叫んでたけど…  マジで寝顔が、可愛すぎる。  綺麗なんだけど…  普通に、可愛い。  俺…この顔にキスしたんだよな?  あんまり嫌がってなかった。  振り払われたけど、キスも二回目まではさせてくれた。  俺的には、嬉しかった。  脈とかあるのかなって、一瞬自惚れた。  そう言えば、俺って…まだハッキリとした告白はしてないんだよな…  告白したら。  何って返事してくるかなぁ…  キスは、良いよって、事なのか?  それなら俺と亜玖斗は、両想い…  そう言えば、踊場で手を振り払われた時に…  『そんな事…聞くかよ。普通 !! 察しろ。アホ!』  って、事は…  ヤベー  照れる。  ニヤけそう。  寝息を立てながら。  にゃむにゃむ何かを言い掛けるその唇に、何気なく触れようとした指先を手の平に押し込めるように固く握り締める。  触れたい。  でも、触れたりしたら。  絶対にせめぎ合っている自制心みたいなのが、崩壊する。  いや、マジでここを切り抜けないと、間違いを起こす。  本当、マジで起きてくんねぇかな…とか、思いつつ。  亜玖斗が、この手の届く範囲に常に居て欲しいしとか、亜玖斗の側に居られるのが、ずっと俺だけであって欲しい。  そんな欲が、溢れてくる。  もう1回。  キスが、したい。  仮に両想いなら…  何って、邪な気持ちになるけど…  寝込みは、絶対にダメだ。  いい加減っぽい付き合い方だとと、よく勘違いされるが、今まで一度でも、いい加減に付き合った事はないつもりだ。  俺の振る舞いが、当時の相手に不信感を抱かせたのかも知れないと思うと、もう少し寄り添えたんじゃないかって、色々と思うことがある。  何って言うか…今更、良い子振る気は起きねぇし。 なんなら。  好きな対象が、亜玖斗になった瞬間から。  気になり過ぎて、ノンケ相手に手が出せないもどかしさとか、苦しい気持ちばっかり沸き起こって…今まで、こんな俺が、誰かと付き合ってこれたのは、モテたかでも…ましてや同じ気持ちだったからでもなく…  一方的に同じ気持ちだと確認することなく。  想いを相手に、押し付けて甘えてただけかも知れない。  それが、いい加減っぽく見えていたんだと思う。  そう言う、いい加減っぽさも、  一方的な気持ちも…  ましてや、甘えたいとか…  それが、亜玖斗には通用しないって分かって、焦っているんだと思う。  そう言う風に思える相手が、居るんだって思い知らされてる。  俺だって、平凡顔ではあるけど…そこまで拒否られる容姿ではないと思っているけど、亜玖斗と比べると顔も容姿も、性格とか霞むぐらいに劣る自覚はしてる。  アイツは格好いい部類いの上位で、俺はどう見ても少し目立つモブ程度。 そんなもんだから。 俺は…亜玖斗を好き過ぎて、自分と比べて…  何度も、落ち込んでる。  それでも、好きなのは変わらない。  ホントに、綺麗なヤツ。  まつ毛長いし。  スポーツする手だけど、そこまでゴツくもなく。  その腕も足も筋肉質って、程でもない。  成績もそれなりで、普通だし。  おそらくは、大学とか専門校とか受験するんだろうな…  俺は、手堅く就職かな?  …にしても、この状況。  俺が、亜玖斗に寄せる感覚が、俺が普段、好きなヤツに抱いてる気持ちや思いとは、違いすぎるから。  どうすれば亜玖斗を、大切に出来るかとか、どうやったら。  笑ってくれるかとか…  俺も、優しくしたいとか…  気が付くと、そんな事ばかり考えてる。  「……なぁ亜久斗。 俺…ホント…ヤバいかも…」  そんな秋芽の呟きが、聞こえた。  ヤバい。  これは…  完璧に起きるタイミング逃した!  今さら起き上がれない。  多分、自分が床で寝るって連呼してた事もあるのかなぁ?  まさか…目が覚めて喉が渇いて水を飲んで、戻って来たら秋芽の寝てる床で… 眠ってしまったとか…  ゴメン。  寝るところ間違いた。  テヘ。  なんて、言える柄じゃない。  曲がり間違っても、可愛くテヘをやれるキャラじゃない。  そんなふうに起きた方が、お互いに気まずい。  それに、2回目のキスの後、おもいっきり振り払って逃げたり。  本音を、口走ったり。  何度思い返しても、ハズくて…  秋芽に申し訳ない。  嫌いじゃないから、余計にどう伝えたらいいか、分からない。  しかも、その話題は買い物中も、夕飯中も、得に振れてこなかった。  このまま寝た振りの方が、いいのか?  って言うか、まぁ…本音は置いといて…  僕が、屋上の秋芽に軽く合図したのは…  突然キスされた事に対して、怒ってないって、知らせたくて…  軽く手を振った…って、だけで…あの騒ぎって、何だよ?  …あぁ…  普段あれだけ一緒に居るわけだから…  なるべくして起こった歓声 ?  悲鳴 ?  おそらく。  周りは、既に僕と秋芽が、付き合っている設定になっているかも知れない。  はっきりと直接本人に聞いた訳じゃないけど、秋芽の恋愛対象が同性って事も、かなり知られている事だけど…  秋芽と話すのは、面白いし。 楽しい。  人として、ウマが合うみたいな?  そりゃ…秋芽は、僕を好きな訳だし。  敢えて、話を合わせてくれているのかもだけど…  それでも、そんな気遣いが嬉しかった。  誰かに対して、気を遣ってきた記憶はないけど…  いつも、誰かの視線や言葉を気にして生きてきた僕にとって、秋芽の自由で、人の視線なんって気にしない生き方やその存在感が、特別に見えて…  あのキスを、拒めなかった。  多分。  僕は秋芽を、信頼していて頼りにしてる。  少しでも、近くに居たいそんな気持ちもある。  でも、僕に関する噂や本当の事とか… 知られたら。  離れるんじゃないかって… どうしても、不安になる。  まぁ…今更だし。 噂の1つや2つ何って、とっくに知られて居るんだろうけど…  秋芽は、なにも言ってこない。  それが、嬉しいいんだ。  だから。  皆のあの反応が、ノリ的な騒ぎだったとしても…  どう接していいのか…  どう言う顔すれば、いいかとか…  テンパって、動けなくなったところを、颯爽とヒーローみたいに現れて…  僕が…  お姫様抱っこされるとか……  ナイナイ。  明日。  どんな顔をして学校に行く?  ってか、この大規模停電。  いつまで続くんだよ?  …てか、秋芽が、さっき言ったセリフが耳から離れない。  “ なぁ亜久斗。 俺…ホント…ヤバいかも … ”  ヤバいって、何?  キスしたこと?  嫌われたとか…思ってる?  …嫌いだったら。  ここに、連れてくる訳ないだろ?  って…、  ちゃんと言わないと伝わらないって事は、分かってる。  今まで人を好きになったって言うか、好きとか付き合ってほしいとか告白されたことは、何度かあったけど、性格がネジ曲がってるし…  睨み癖が、直らなくて…  そんなこんなで、ちゃんと恋愛の事、考えてこなかったツケなのかな?  実の親って言うか、親族に対しても、こんな感情は抱いた事がない。  僕は、親族達からは、どうでもいい存在で…  居ない者扱いで。  それも、“ 者 ” 扱いもされないまま…  金だけが、一定額毎月振り込まれていて…  ここは、自宅からも遠い。  誰も僕を知らないからと、かなり前からここに1人で住んでいる。  それだけ僕は、邪魔な存在だけど、僕を執拗に追う誰かを簡単に揉み消して、簡単に何も無かった事にされる。  いっそのこと。  僕ごと消してもらってもいいのに…って、随分前から思っていた。  顔や容姿を褒められて、祭り上げられても虚しいし。  バカみたいなだけ。  そんなの意味ないし。  大抵、近寄ってくる子達は、年が近ければ容姿を褒めてくる。  そして…  大人は全部、疑ってかかれ。  …が、数年に一度顔を合わせるか、合わせないかぐらいの一応、両親と呼べる存在達からの受売りだ。  僕の部屋にテレビが無いのは、親や親族ってヤツらを、敢えて見ないためでもあるから。  クラスメイトや仲間内からドラマやニュースの話をされるのが、マジで辛い。  ホントにどうでもいいし。  必要ない情報なのに、身を守るための情報が欲しくなくて、子供の頃から警戒心は強い。  次に何を、言われるのか… ビクビクして過ごした小学生の頃から誰かに気付いて欲しくて、物分りのいい振りしてた。  それだけじゃ誰にも、気付いてもらえるはずもないって分かってて…  何となく受験した地元の高校に秋芽が、居て声を掛けられた。  それが、始まりだった。  人懐こいし。  ベタベタって、馴れなれしいし。  そう言うのに慣れてない僕は、鬱陶しくて…  それでも秋芽は、こんな僕に皆と同じ様に優しく声を掛けてくれた。  最初。  根性ネジ曲がった僕は、兎に角それが鬱陶しくて…  少し冷たく対応した事もあったけれど、冷静になって考えたとき僕以外の人と、一緒に楽しそうに話して居るのを目撃して、複雑な気持ちを初めて感じた。  その頃には、秋芽の恋愛対象が同性で、もしかしたら僕に声を掛けたのは、そう言う事があったからじゃないかと、人伝に聞かされていたから。  僕以外の他人との仲良さげな雰囲気とか見かける度に、一人でイライラして…  嫉妬していたんだと思う。  多分、最悪な顔してた。  まぁ…綺麗すぎて顔が怖い何って言われるぐらいだから。  言わせておけって、開き直っていたけど…  それでも、なんか…  近くに居たかったんだろうな…  その時にはもう…  声を掛けられるのが、嫌いじゃなくなっていた。  それが、初めて他人を好きになった事への自覚だった。  それからは、ひたすら。  好かれたい。  声を掛けてもらた過ぎで…  いや…だって。  秋芽も、性格がいいし優しいで…人気があって…  もう自分からも、いかないとダメなんだって気が付いて…  遊びに誘ったり。  誘われたり。  本当は、部屋でゆっくり話したいけど、呼ぶ勇気が無くて。  皆と遊ぶ名目で、初めて誰かを部屋に呼んだ。  最初、例のテレビが無いとこに引かれたけど、無くてもそれなりに溜まり場になったり。  仲間で、出掛けたり。  そして…  段々と欲深くなっていく秋芽への気持ち。  2人だけで出掛けられた時は、  ホント。  ずっと頭の中が、ワタワタしてた。  多分。  両…想い。なのかも知れない。  って…ヤバい!  寝た振りしながら。  ドキドキを通り越して、心臓が爆発する。  そんなふうに必死で、気持ちを悟られないように、無心に寝た振りをしていると耳元で秋芽の声が聞こえた。  「……亜玖斗… もしかして、起きてる?…」  その息みたいな声にビックと顔を上げる。  顔の近さもそうだけど。  略、秋芽との距離がゼロなんだけど…  いつの間に?  「あの……」  「俺が今、言った事、聞いてた感じ…とか?」  ガバッと身を起こす亜玖斗の右腕を俺は、咄嗟に掴んだ。  亜玖斗が、話を聞いていたとか、なんってどうでもいい。  目の前いる大好きなヤツを逃がしたくない。  それだけ独占欲が、勝ってた。  目の前には、真っ赤になって、うつむいて気まずそうに首を振る亜玖斗の姿。  何かを、言い掛ける声を塞ぐようにキスした。  右手の手の平で頬を包み込むと、熱い顔、そのままに俺を見上げてくる。  「…えっと…あの…」  「俺は、亜玖斗の嫌がる事はしたくないから。だから嫌なら何もしない…」  アレ? 俺なにしながら。  何を、言ってる?  意味おかしいだろ?  言葉と行動おかしくねぇ?  動揺して、焦ってるのは俺の方だ。  「あの…何か、意味不でゴメン。俺どうかしる」  何となくだけど雨音が、強くなってきたように聞こえる。  風に煽られる雨が、窓ガラスに打ち付けられる。  無音だったら気まずさで、ケンカにでもなりそうだ。  好きだから、近づきたい。  好きだから、嫌われたくない。  好きだから、この時間が止まればいいと思ってる。  「…あの秋芽。少しだけそばに居てもいい?…」  そんな言葉しか出てこないとか、僕はこう言う場に、慣れてない。  おそらく。  無意識に出た言葉だと言う事は、分かった。  僕のできる。  精一杯の返事だったと思う。  僕の頬を包み込む秋芽の手の平の熱が伝わってくる…  もどかしいような、くすぐったくて、いつの間にか僕も秋芽の手の甲に手を添えた。  亜玖斗が、耳まで赤くして少し涙目で、見上げてくるって…  ハグしてぇー  …うん。  ってか、今ここで、がっついたら完璧に嫌われる…  大体ハグなんってしたら、平常心ではいられなくなる。  それこそ自尊心が、崩壊する。 とか、何とか言いながら。  この手はどこに持っていくべきだ?  今までの俺が、がっつき過ぎたんだよ。  で、付き合ってくれたヤツらも俺も含めて色々と軽かったんだ…  この状況。  今までの俺なら組倒してる。  いや…  もう色々と、限界なんだけど…  俺、今何で今キスした?  亜玖斗も、少しは嫌がれよ…  物欲しそうな顔するな…  「あの…秋芽…」  「何?」  頭の先から脚の爪先まで、ブワッって、駆け巡る熱量と飛び上がる程に高鳴る心臓の音が、思考を歪ませる。 亜玖斗の方から顔が、近付いてくる。  流されるなって、強く思いながら。  目の前に事には、逆らえない。  俺は、亜玖斗をどうしたいんだ?  そう思った時…  強い光と音に震えるような地響きが、建物を揺らした。  まさに雷が、近くに落ちた感じだ。  真っ暗なのは、かわらない。  強い雨音が、ノイズのように耳に響く。  俺自身、ビックリしたのは勿論。  しばらく放心状態で、声にならなかった。  って、俺ら今どんな体勢なんだ?  真っ暗で、何も見えねぇ…  亜玖斗が、俺の両手を掴みながら身を潜めたものだから。  これって、間違いなく抱き付かれてる。  俺も俺で、びっくりしてそのままの体勢だから。  なんか…  俺、亜玖斗に押し倒されてる?  「あっ…ゴメン ! 今どけるから!」  「落ち着けって! 俺は、大丈夫だから」  お互いに身を起こして、その場に座り込む。  「取り敢えず。危ないから近くに居ろ…」  本当、それを言うだけで精一杯だった。  真っ暗で、相手の気配がするだけの空間。  心臓が、飛び出してくる勢いでバクてて…  少しでも、自分の肩や指先が、亜玖斗に触れるそうになる度、どうにかなりそうになりそうな気持ちを雨音から少し落ち着けと、言われている気がした。  「あのさぁ…」  俺と亜玖斗は、略同時に似た言葉を発した。  「なに?」  「…ほ…放課後のさぁ……そんな事きくかよ。察しろって…その…そう言う事でいいのか?」  スマホで時間を確認しながら… 俺が淡々と言い終えようとすると、そんな俺の顔面めがけて亜玖斗は、クッションを投げ付けてきた。  「…なっ!」  「だからアホって、言ったんだろ!」  亜玖斗は、立ち上がった。 ボンヤリと暗い部屋に浮かび上がる亜玖斗の顔は、少しどころじゃないぐらいに真っ赤で…  「別に近くに居ろとか…離れるなとか…そう言う……」  「亜玖斗?」  「…だから。僕ら変に勘ぐられるんだよ…」  俺も後を追うように立ち上がり。亜玖斗の腕を掴んだ。  振払うかな? って、考えたけど振払うどころか耳まで真っ赤で…  こう言うのを見ちゃうと想いが、重めな俺としては、ギュッてしたくなる。  「……………」  したら多分。  どつかれるかも?…  それも、それでありか? とか、色々と考えた末に腕を引っ張って、そのままの勢いで抱き締めた。  キスまで許してくれた相手に今更、恐縮すんのもおかしいだろ?  「俺は、執着するとベタベタしてウザイから振られんのかな?…」  「…バカで、重くてウザい…」  「そう言うのが、嫌いなヤツが多かったのか…一方的だったのか…」  「僕は、大丈夫だよ。いつもみたいに、ベタベタしてくれば? 逆に僕は、無関心ってのが…嫌だから。秋芽ぐらいの想いの重さが、ちょうどいいのかも……」  抱き締めた腕の隙間から。 スリッと顔を出した亜玖斗の顔が…  「可愛すぎるって…」  「男に可愛いって、なんだよ!」  ムッと、怒る亜玖斗をまた強く抱き締める。  「あのさぁ…亜玖斗。キスしていい?」  「……………」  「あの…亜玖…斗?」  何も反応もしてくれないと、思った瞬間、亜玖斗はモゾモゾと腕を出して俺の背中に回すと、そこまで強くはないグーパンで小突いた。  「だから。そう言うところだ !! 聞くなよ! この…鈍感……」  段々と語尾が弱々しくなるを見ると、引っ掛かり何って全部、どうでもよくて…  いつもの重さに拍車が、掛かる感じで…  それを、満更でもない様子の亜玖斗を、このまま重く愛してしまおうかと… 永く繰り返すキスの合間に誓ってしまったのは、後で話そうか…… おわり  
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