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現在私が暮らしている町では、秋になると秋桜の摘み放題というイベントを毎年行っている。
町内にある複数の公園や花壇を利用して行っているイベントなのだが、かなり人気がある様で、毎年沢山の人が無料で秋桜を摘みに訪れていた。
が、あまりにも客が増えてしまった為、数年前から徐々に摘める花の量が足りなくなり、花を摘むスペースもかなり手狭になってきてしまう。
これに慌てた町長達は、秋桜を植えられる土地を探し始めた。
と、隣の市との境に大きな土地がある事に気付く。
その土地には、かなり高齢の女性が1人で暮らしていた。
彼女は昔から町に住んでいる住人で、その土地は彼女の先祖が代々暮らして来た土地らしい。
しかし、そこはまた、隣の市とうちの町共同の再開発区画に何年も前から入っている土地でもあった。
住み慣れた土地をこの年になって離れたくはない、という理由で何年も立ち退きに応じていなかった老婆。
彼女には、現在九州で暮らしている一人息子がおり、彼からは同居をしないかと言う誘いがあった様だが、老婆は全て断っていた様だ。
頑として立ち退きに応じない老婆。
しかし、老婆の住む土地をどうしても手に入れたかった町長達は、老婆に嫌がらせを始めた。
それから数か月後のある日――結局嫌がらせに屈し、町役場に『立ち退きに応じる』と連絡して来た老婆。
彼女は役場にて全ての手続きを済ませると、『九州で息子と同居する』と言い残し、町を後にした。
町長達はその家を直ぐに取り壊すと更地にし、早速様々な区画に分け始める。
そうして、春になるや直ぐに大量の秋桜の種が植えられた、老婆の土地。
春に植えられた秋桜達は、数か月後には見事に美しい花を咲かせ始めた。
こうして、前の年より大きな規模で開始される秋桜摘みイベント。
かなりの賑わいだったそのイベントは、大盛況のままに終了を迎えた。
しかし、その数時間後……なんと、秋桜摘みイベントに参加した客達から役場にクレームの電話が殺到したのである。
何でも、『秋桜を持ち帰ってから、黒い着物――喪服を着た老婆の幽霊が出た』らしい。
例えば、車で秋桜を摘みに来た家族は、帰りの社内で見た事もない――黒い、喪服姿の老婆が助手席に座っているのを目撃した。
秋桜を洗面所に飾ったカップルは洗面台の鏡に黒い着物の老婆が映り込み、ダイニングに飾った家族は深夜に喪服の老婆が俯きながら椅子に座っているのを目撃したそうだ。
それらのクレームから、あの立ち退かせた老婆が何か関係しているのではと疑う町長や役場の職員達。
彼らは、九州で暮らす老婆の息子に連絡を取り、話を聞いてみる。
だが、そこで聞いたのは衝撃的な内容だった。
なんと、老婆は九州に来ていないと息子が言うのだ。
それどころか、息子は老婆が立ち退いた事すら知らなかったらしい。
どういうことだとパニックになる息子や町長達。
老婆は一体どこに行ったのか。
――老婆の行方は今も分かっていない。
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