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人魚専門衣類クリーニング工場
ここは人魚専門衣類を扱うクリーニング工場です。
「人魚専門衣類って何だろう」って?
人魚の下半身の魚になっている部分、実はあれ、着脱可能なんです。
海の中や琵琶湖で暮らす人魚達は、通称『半身カバー』を頻繁に履き替えます。
人魚の数が増えてきたので、「クリーニング工場に任せた方がお得だ」と、人魚組合のベテラン人魚(推定5万4000歳)の鶴の一声で委託が決定しました。
今では人間よりも人魚の数が増えたので、ひっきりなしに依頼が来ます。
天井を伝う巨大なパイプを通り、一度洗いされた数百もの半身カバーが一気に吐き出されます。
Sサイズ、Mサイズ、Lサイズ、2Lサイズ、3Lサイズ。
ごちゃまぜになっているので、数人の手でサイズごとに分けていきます。
裏返っている物はひっくり返します。
ポケットに物が入っていないかを確認します。
『人魚は細いからLとか2Lとか3Lありえないんじゃないか』って?
『人魚が細い』というのは人間の思い込み。
プラスサイズ、わがままボディー、胃下垂の人魚もたくさんいるんです。
多様性です、受け入れましょう。
最近は人魚もスマホを所持しているとため、半身カバーに深めのポケットが付いていたり、スタッズが付いていたり、迷彩柄やデニム地などの、いわゆる『お洒落半身カバー』も流通しています。
半身カバー産業に目を付けた人間が編み出したのです。
サイズごとに分けられた半身カバーは二度洗いされた後、クリーニング工場に何百年、何千前年も前から勤めている職人がアイロンをあてて仕上げます。
数百年前、数千年前にアイロンはおろかクリーニング工場もなかったでしょうに、設定が破綻していますね。
シューッ、サッサッ。
シューッ、サッサッ。
一定のリズムであてられるアイロン。
アイロンが終わると、ハンガーに掛けられ、透明のビニールが被せられます。
コマの付いた台車にハンガーを並べて掛けて運び、トラックに載せ、ドライバーが海や琵琶湖に向かいます。
ドライバーはトラックを走らせながら考えます。
(人魚の上半身は人間だとして、魚の部分はどうなっているのだろう?いや、変な意味じゃなくて。その中の身は肉ではなくて魚なのか。そして青魚なのか?白身なのか?ってことさ。でもそれを言葉にすればマメハラで職を追われてしまうので、頭の中で考えるだけに留めておこう)
以前、人魚を無理やり捕獲しようとして、逆に補食されてしまった事件がありました。
人魚をMRIやCTスキャンで撮ったり血液を採取したりして、その生態を調べようとしたのです。
人魚側の了承を一切得ておらず、人魚達を怒らせ、約300年もの間、人間との交流を絶つ事態に発展しました。
そう、教科書にも載っている『半身カバー鎖国(804年)』です。
「お届けにあがりました!」
琵琶湖に到着したドライバーは水面に向かって声を張り上げます。
しばらくしてから1人のベテラン人魚が顔を出し、PayPayで支払いを済ませます。
支払いを済ませたベテラン人魚は、琵琶湖の畔に山積みにされた半身カバーに視線をやり、指を指します。
「はい、お預かりします!」
ドライバーは山積みにされた半身カバーを専用の袋に積め、トラックの荷台に運びます。
今日も大量の半身カバーがクリーニング工場に送られていきます。
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