第1章

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「リーナ陛下。お久しぶりでございます」  かしこまった挨拶をした彼は、リーナににっこりと笑いかけてくれる。  もうすぐ三十が来るというのに、その表情には何処か幼さを感じさせる。が、それとは不釣り合いな大人の色気も醸し出していて。 (『魔性の公爵さま』、か……)  社交界で何度も聞いた彼の呼び名を思い出し、リーナは顔を背けた。  このまま視線を合わせていれば、自分はゆでだこのように真っ赤になってしまいそうだったから。 「それにしても、リーナ陛下」 「……は、い」  何処かリーナを咎めるような口調で名前を呼ばれて、身を縮めて頷く。  彼は、大きくため息をついた。 「そんな、ふらふらになるまで頑張ってはいけませんよ。……たまたま戻って来てみれば、あなたさまはこの状態で、気が気じゃない」 「……ごめんなさい」 「いえ、謝っていただかなくて結構。……今後、気を付けてくだされば、それでよろしいです」  リーナにそう言い聞かせた彼は、リーナの身体を大理石の上に下ろす。すると、侍女長が駆け寄ってきてくれた。 「リーナさま」 「……ごめんなさい、大丈夫」  ゆるゆると首を横に振って、侍女長にそう伝える。彼女は少し苦しそうな表情を浮かべるが、それ以上なにも言わなかった。  その間に、男はリーナの前に跪いた。長身の彼。でも、跪いたらリーナよりも当然目線は低くなる。 「オスワルド・ヒルレンブラント、ただいま戻りました」  恭しく首を垂れて、男――オスワルドがそう言葉を述べる。
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