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「リーナ陛下。お久しぶりでございます」
かしこまった挨拶をした彼は、リーナににっこりと笑いかけてくれる。
もうすぐ三十が来るというのに、その表情には何処か幼さを感じさせる。が、それとは不釣り合いな大人の色気も醸し出していて。
(『魔性の公爵さま』、か……)
社交界で何度も聞いた彼の呼び名を思い出し、リーナは顔を背けた。
このまま視線を合わせていれば、自分はゆでだこのように真っ赤になってしまいそうだったから。
「それにしても、リーナ陛下」
「……は、い」
何処かリーナを咎めるような口調で名前を呼ばれて、身を縮めて頷く。
彼は、大きくため息をついた。
「そんな、ふらふらになるまで頑張ってはいけませんよ。……たまたま戻って来てみれば、あなたさまはこの状態で、気が気じゃない」
「……ごめんなさい」
「いえ、謝っていただかなくて結構。……今後、気を付けてくだされば、それでよろしいです」
リーナにそう言い聞かせた彼は、リーナの身体を大理石の上に下ろす。すると、侍女長が駆け寄ってきてくれた。
「リーナさま」
「……ごめんなさい、大丈夫」
ゆるゆると首を横に振って、侍女長にそう伝える。彼女は少し苦しそうな表情を浮かべるが、それ以上なにも言わなかった。
その間に、男はリーナの前に跪いた。長身の彼。でも、跪いたらリーナよりも当然目線は低くなる。
「オスワルド・ヒルレンブラント、ただいま戻りました」
恭しく首を垂れて、男――オスワルドがそう言葉を述べる。
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