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さて、また場所は変わってここは地球のエクステンド国。ガムプロジェクトが終了してから一週間が過ぎ、ビヨーンは日課の散歩をしていた。
プロジェクトが終了した後、ビヨーンは散々な目に合った。エクステンドの国民から、世界中に迷惑をかけた罪人扱いを受けたのだ。プロジェクト中は皆応援してくれたのに、終った後は手の平を返して批判された。
ビヨーンはすれ違う人に悪口を言われた事を思い出し、歩きながら舌打ちした。
その時、ぐにょっとした感触の物を左足で踏んだ。そこはあのガムを踏んだ場所と同じだった。しかし、ガムはまた誰かが踏まないようにするために、除去されたはずである。なかなか地面から剥がせないので、最終的にはガムを溶かす薬をかけて綺麗に取り除かれた。
いったい何を踏んだのだろうか。ビヨーンはそう思い、靴をどけて地面を見た。そこには、なんと空き缶が落ちていた。どうして缶がこんなに柔らかいのだろうか。しかも、ガムのように靴にくっついて、よく伸びた。三歩進んでもちぎれない。
缶を靴から剥がそうにも、手にくっつけば取れなくなるかもしれない。仕方ないので、ビヨーンは靴に缶をつけたまま散歩を再開した。しかし、歩き続けていると、だんだん左足が動かしづらくなっていく。缶に引っ張られているようだ。
そこに、ビヨーンの幼馴染み、ブラーンが通りかかった。
「あら、どうしたのビヨーン」
「それがさ、ポイ捨てされた缶が靴にくっついて、どんなに引っ張っても取れないんだ。しかもゴム紐みたいに僕を引き戻そうとするんだよ」
「そんな缶あるわけないじゃない。嘘つかないでよ」
「本当だって。ほら」
ビヨーンは缶がくっついている地点(次から「缶地点」と表記する)にまで下がった。すると、引き伸ばされていた缶は元の形状に戻った。それはどう見ても空き缶だった。
「すごいわ。こんな缶、見た事ない」
「喜んでる場合じゃないよ。これのせいで僕はこの場所から進めないんだ」
「じゃあ、私が引っ張るのを手伝ってあげるわ。そしたらさすがにちぎれるでしょ」
「ありがとう。お願いするよ」
ビヨーンは缶地点に背を向け、ブラーンと向かい合うようにして立った。ブラーンはビヨーンの両手を掴む。二人はその状態で、缶地点から離れるように移動した。
ビヨーンは渾身の力で前に進み、それをブラーンが引っ張って補助する。
そこへ、以前もここで会ったグネス社員が通りかかり、アタッシュケースからメジャーを取り出すと、缶の長さを測り始めた。
ビヨーンとブラーンはそこから四歩進んだ所で、缶地点に向かって引き戻された。二人とも地面に投げ飛ばされて悶絶する。
「すばらしい」
グネス社員は手を叩いて言った。
「缶が伸びた長さは4メートル11センチでした。こんなに缶を伸ばした人は世界のどこにもいません。つまり、世界新記録です。おめでとうございます」
その時、通りがかりの老人がグネス社員に話しかけた。
「君、今言った事は本当かね」
その老人は、なんとこの国の新大統領、カイキャク・ヒャクハチジュードだった。
グネス社員は答えた。
「はい、私が証人として立ち会ったので、この記録は公式的に認められますよ」
「すばらしい。今日はこの国にとって記念すべき日になるぞ。祝日にしよう」
大統領はビヨーンの手を握りしめて言った。
「ありがとう。今この国はガムプロジェクトの事故によって国外からの印象が悪くなっている。しかし、君の華々しい記録によって、その印象は覆されるだろう」
大統領はそう言って涙を流して喜んだ。ここまで喜ばれるとビヨーンも満更ではない。
「ありがとうございます、大統領。光栄です」
うんうんと大統領は頷いてから、こう言った。
「それで、私から提案があるんだが、この記録をもっと伸ばしてくれないだろうか。私もできる限りの協力をするから」
ビヨーンは胸を張って答えた。
「分かりました。この国のために、記録をもっと伸ばしましょう」
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