第四章 妙な噂

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第十三話 噂の正体  そっと体育館倉庫の中を私は覗いた。大きな窓から月明かりが差し込み、真ん中にいる人物を照らしている。その人はこちらに背中を向けたまま、何かを触っていた。 「……んふ、はあ……」 「……?」  なんだ、この声。本当に天使……なのでしょうか? 今更だけれど、天使の力や気配をあまり感じない。 「あの……」  勇気を持って話しかけてみる。すると中にいる人は、ばっと私の方を振り返った。……女性だ。 「なあに? アタシ忙しーんだけど」  彼女はビニール袋いっぱいに詰められた白い羽を手に取っては頬擦りしたり、キスをしたりしている。情報が得られる度に、混乱は増すばかりだ。ひとまず、彼女の至福の時間を邪魔しない程度に話を聞かなければ。 「あなたは悪魔です、よね?」 「……そうね」  なるほど、よくわかりません。とりあえず敵対はされていないようなので質問を続けてみましょうか。 「では、どうして羽と戯れていらっしゃるのでしょうか?」 「白い羽が好きなの。憧れている天使様がいるから」  この人は悪魔で、憧れている天使がいるから、白い羽をこうして人目につかないところで愛でているというわけか。なるほど、やはりよくわかりませんね。 「その天使……様のお名前は?」 「上級天使ルウベス様よ」 「!」  まさかここで我が御師匠様の名前が聞けるとは。興奮しそうになったが一旦気持ちを落ち着ける。こういう時こそ慎重に。相手は悪魔だ。決してボロを出してはいけない。 「天使様に憧れているのは大変よくわかりました。では、その白い羽はどこから?」 「布団の羽よ。これくらいしか白い羽って手に入らないんだもの」  羽の出どころがわかればひとまずは安心か。天使を捕まえて捥いだとかではなくてよかった。 「そうですか。……あなたはここの生徒ですよね?」 「ええ。アタシ一年のペタラス。ペタでいいよ。アンタは?」 「一年のリア カロウリです。リアとーー」 「カロウリ!? カロウリですって!!?」  突然大声を出されて私の体は大きく跳ねた。相手は大変ご立腹の様子。私のファミリーネームがそんなにおかしいのだろうか? 「カロウリって、カローリと似てるじゃないの……! まさかアンタもルウベス様を……許せない!」  彼女のその発言を聞いてようやく納得した。私が下界で名乗っている”カロウリ”というファミリーネームは、ルウベス様と私が天界で使うファミリーネームである”カローリ”を少し発音を変えたものだった。  なんとなくそのままで利用するのは気が引けたのだ。  そして目の前にいるペタさんは、憧れの天使ととても似た名前を持つ悪魔(潜入天使)に嫉妬のような感情を向けておられるのだろう。  ……困ったな。もっといかつい名前にしておけばよかった。ゴロウゴリとか。 「ちょっと待ってください、ああ、落ち着いて」 「待たない! 焼き入れてやる!」  ペタさんは私に攻撃魔法を打とうとしている。悪魔でありながら魔法使いということは結構な力をお持ちのようだ。キラアやユーデを含む、この学校に通う悪魔はほとんど魔法が使えない。  ……さて、どうしたものか。
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