第三章 私天使。完全に悪魔を出し抜いている

2/6
前へ
/37ページ
次へ
第六話 悪魔のお弁当 「うわあ〜! 腹減ったぁ〜」 「頑張って。ごはん、もう直ぐだよ」  今日は入学して初めての行事、遠足だ。生徒達で山に登り、山頂で自由にお弁当を食べる。もう山頂の広場が視界に入っていた。  隣を歩くのは入学式の日から仲良くなったキラアとユーデ。どちらも男子生徒だ。ユーデはもっと名前が長かった気がするが、覚えられないので親しみを込めてユーデと呼んでいる。 「リア、あっちでたべよー」 「うん」 「おなかすいた〜」  三人で広場の一角に座り、みんなが弁当箱を取り出した。私は素早く二人の弁当の見た目を確認する。 「(おかず全部真っ黒……!)」  ……よし。まずは第一関門突破か。料理本を見た時は絶望したが、頑張って真似した結果、私の弁当はうまく紛れることができている。さすが悪魔というべきか、彼らは皆真っ黒いものを食べるらしい。  購入した本にはたくさんおかずのレシピが載っていたが、正直全部黒過ぎて見た目は大差ない感じだった。どうしても食べたいが載っていないものは好きに作り、黒くする技術だけ頂戴した。  悪魔には料理の見た目を楽しむ感性は備わっていないのだろう。可哀想に。 「ん〜! んまそ。いただきまーす!」  元気な声でキラアは美味しそうにおにぎりを頬張っている。ユーデも卵焼きらしき黒いものを食べ始めたので、私もおかずを摘んでお茶に口をつけていた。 「ご飯中にしていい話か迷うけどさぁ……」  突然キラアが少し困ったような顔をした。私とユーデは口を動かしながら彼の話に耳を傾ける。 「天使って、……おにぎりにこし餡入れるらいいよ」 「うげ。まじで? ないわー。そこは粒あんだろ」 「ぶはっ!!!」 「ちょっとリア、吹き出さないでよ〜」 「粒あんはもちろんだけど、オレはおかかも好きだよ。あと海苔の佃煮」 「ごふっ!!!」 「リアーーー!!!」  思わぬ話題に私の心は大きく乱れた。まさかおにぎりの中身まで文化の違いがあるとは。外からの見た目が黒ければそれで良いのではなかったのか。  ユーデがかぶりついている唐揚げも、外側は黒いが中の色は普通なのに……。  持ってきた弁当箱には、普通におかずを作りレシピ本を参考に黒く仕上げただけのものも混ざっている。つまりコロッケやおにぎりの中までは気を配っていない。  もし中身があるおかずを交換して食べられたらどうだろう? 『なぬっ!? おにぎりの具がシャケだと……貴様天使だな!』 『殺せぇぇえええ!!!』  ……となる。想像はいとも容易い。まずい、冷や汗が出てきた。下界の中では一番身近となった友達に正体がバレるなんて嫌だ。  あと天使はおにぎりにあんこを詰めるような真似はしない。特に私のファミリーでは許されざる所業とされている。  おにぎりにはシャケや明太子などの明るい色の具を入れると、ルウベス様がお決めになったのだ。 「そろそろさぁ、みんなのおかずも食べたいなぁ」 「交換しよー」  どうしよう、恐れていた時間がやってきてしまった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加