第三章 私天使。完全に悪魔を出し抜いている

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第八話 悪いことは同時にやってくる  この学校には、外部の客を招き入れる行事がいくつか存在する。その中で一番大きいと言っても過言ではないもの、それが音楽祭だ。 「うわ! すごいじゃんリア!!」  掲示板に貼られた代表者名簿の前で、友人のキラアが声をあげる。名簿の”歌唱”と書かれた横に、リア カロウリ、つまり私の名前が載っていた。音楽祭に演者として舞台に立てるのは生徒全員ではない。オーディションを勝ち抜いた代表者だけだ。代表ではない生徒達は客席や裏方に回る。  当日キラアとユーデの二人は客席で見てくれるらしい。二人がとても楽しみにしてくれているようなので、頑張らないとな、と少しだけ意気込んでいた。  ……なのに。  当日。衣装に着替えた私の前で、真っ青な顔のラッグ先生が何かを言った。聞き間違えかもしれないのでもう一度聞き返すが、内容は変わらない。 「えっ」 「リア。君は一人でステージに上がることになる」 「は?」  深刻な表情でラッグ先生に言われて、私はその一切を理解できずにいた。 「何故です? 他の皆さんは?」  歌唱のステージの代表者は全部で七人。何故私が一人で舞台に立たなきゃいけないのかと先生を見上げる。先生は眉間に深く皺を寄せて、片手で額を抑えていた。 「体調不良、家庭の事情……等、様々な理由で君以外の六人が欠席だからだ」 「欠席」  拾えた最重要の単語だけを口に出す。なんてことだ。 「では中止にすれば良いのでは」 「それがーー」  ぬっと大きな影が私たちを覆う。その正体は学年主任の先生だった。 「それはなりませんね。長年続いてきた伝統行事を、こんな簡単に途切れさせることなどあってはいけません。代表者が一人残っているのですから。パフォーマンスには十分でしょう」  そんな、たかがひとつの学校の伝統行事が一年途切れたぐらいで、野山が枯れ果てる訳でもあるまいし。中止の方が逆に取れ高じゃないですか。最後の一人である私がこの場で急な腹痛(嘘)にのたうち回ってもいいんですよ。  ……などと言おうと思ったが、相手の顔が怖過ぎたのでやめておいた。 「……はい」 「わかったならよろしい」  かなり不服だがステージに立つしかない。歌は得意だし好きだし、別に悪い気はしない。悪魔や魔族共が、天使である私のワンマンステージに酔いしれるなんて滑稽ではないか。かなり笑える。 「くっくっ……」 「……おい、緊張でおかしくなるのもわかるが、今日の君は演者だ。情緒は保て」  ラッグ先生の手が肩に置かれる。笑っているところを見られてしまった。妙な勘違いをされているのをスルーしつつ、私は今もパフォーマンスが行われているステージに目をやった。  あそこに、これから私は一人で立つのか。ちょうど舞台が暗転する。次の演者が舞台に上がっていった。それを繰り返すうちに、歌唱のステージの時間となる。 「ほら、出番だ。いけるな?」 「……はい」  先生に背中を押されて私は舞台の中心に立った。一人しかいないことに客席がざわつくが無視を決め込む。 「…………」  照らしてくるライトが熱いけれど、そんなことは一瞬で気にならなくなった。前奏が流れる少し前から息を吸い始める。大丈夫、私なら。  ぶつっ。 「……?」  ぶつっ……? なんだろう今の音は。インカムに耳を傾けると、ガサガサの音声がかろうじて聞き取れた。 『機材トラブルです! 音楽流れません!』 「(ハァ……?)」  今日は悪いことばかりが起こる。  私は何か、神の気に触るようなことでもしでかしてしまったのでしょうか?
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