特別

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「アレのことなんだけど」 それだけで、箱崎くんが何を言おうとしているのかすぐにわかった。 それだけ鮮明な記憶として頭にこびりついている。 「い、言わない! 誰にも言ってない!」 「そう」 箱崎くんはそれ以上何も言おうとしなかった。 その表情からは何を考えているのか読み取れない。 「でも、先生と恋愛とかドラマみたいだね」 沈黙が怖くてバカみたいなことを言ってしまった。 それで、さっきまで普通に見えた箱崎くんの顔から表情が消えた。 「そんなふうに見えた?」 「えっ? あ、うん」 「君は、幸せな家庭に育ったんだね」 「幸せ? いつも怒ってばっかのお母さんと、休みは寝てるだけのお父さんに、生意気な妹だけど」 「それを、幸せって呼ぶんだよ」 「そっか、そうかもね」 箱崎くんは立ち上がると言った。 「君は、特別に無料(ただ)でいいよ。したくなったら言って」 それって…… 箱崎くんの言葉の意味を、何度も何度も考えたけれど、同じ結論にしかならない。 でも、それを言葉にすることはできなかった。 代わりに、公園の中を通って、反対側の道路に向かう箱崎くんの後姿を見続けた。
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