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箔泉堂からコンペの結果が知らされる日、鴨白さんは一日中事務所にいた。 たまに久山さんや優木さんと雑談していたけれど、楽しそうにも見えない。 紅茶を淹れると、前みたいに無言で受け取っただけだった。 そして、口もつけずにデスクの端にマグを追いやって、ずっとモニターに映し出されたどこかのサイトを見つめていた。 緊張してる? お昼になると、久山さんと優木さんと3人でランチに出かけて行ったけれど、2人の後をただついて行ってるだけ、といったふうに会話に入ろうともしていなかった。 午後になって、仕様書の作成を優木さんに頼まれ、作りながら鴨白さんの様子を伺うと、午前中と同じサイトをまだ見ていた。 3時頃、鴨白さんが一言だけ「あ」というのが聞こえた。 それで見ると、メーラーがモニターに表示されていた。 鴨白さんが久山さんにメールを転送したらしく、久山さんが「やった! 箔泉堂の契約決まった!」と、大きな声で言った。 久山さんと優木さんが喜んでグータッチをする姿を、鴨白さんは表情を変えることなく、黙って見ていた。 あまりにも嬉しくて放心状態? 「良かったですね」 声をかけると、わたしの方を見ようともせず、久山さんのところに行くと「悪いけど後を頼む」と言って事務所を出て行ってしまった。 「どうしたんですかね?」 そんな様子を見て優木さんが不思議そうに言った。 7時を過ぎても鴨白さんは帰って来ず、「帰っていいよ」と久山さんに言われて事務所を出た。
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