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事務所の入るビルのエントランスを出たところで、後ろから久山さんに呼び止められた。
「ごめん、待って。柚木さん」
そう言いながら息を切らしている。
「どうしたんですか?」
「走って、階段、下りたから」
久山さんが落ち着くまで待った。
「あいつ、どこか変じゃない?」
「変でした。契約とれたのに嬉しそうに見えませんでした」
「だよな」
「何かあったんですか?」
「それを託す」
「え?」
「あいつの様子見て来て」
「……でも、わたし今日、目も合わせてもらえませんでした」
「だったら、もうあいつと関わるのはやめる?」
「わたしにできることなんてあるんでしょうか?」
「そんなのわかるわけない」
「いい加減ですね」
「あいつが大学に入るまでのこと、何も知らないんだ。話そうとしないから。知ってるのは、長野が地元で、両親とも健在でいい人らしいってことだけ。でも、きっと言いたくないことがいっぱいあって、それにとらわれてるんだと思う。全部、柚木さんに託すよ」
「マンションに行ってみます」
「頼む」
久山さんが戻るのを見送って、鴨白さんのマンションに向かった。
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