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ドアフォンを押すのがこんなに怖いものだなんて、子供の頃は絶対に思ったりしなかった。
「久山さんのバカっ」
一言呟いてから、目の前のボタンを押した。
応答がない。
きっと居留守。
そんな気がした。
だから、何度もボタンを押した。
それでも応答がないから、ドアを叩いた。叩きながら呼びかけた。
「鴨白さん! いますよね? 出て来てくださーい! 鴨白さーん!」
いきなりドアがガチャっと開き、腕を掴まれて中に引っ張り込まれた。
「近所迷惑」
「鴨白さん、何かあったんですか?」
わたしの質問に、鴨白さんは眉を顰めた。
「聞いてどうする? 『自分ならあなたを救えます』とか言ってくる?」
以前のように冷たい目。
「それができるなら、そうしたいと思っています」
「ボロボロになるまで傷つけてやろうか? 俺はそういうの得意みたいだから」
「わたしなら大丈夫です」
「どうせ口だけだろ。そんなに俺のこと好きなら、やらせろ。脱げ。簡単だろ?」
「そんなの本当は望んでないのに?」
「……どうせ、同じだったくせに。帰れ」
今度は外に押し出された。
くやしくて、腹が立った。
どうして急にあんな言い方になるの?
話すらちゃんとしようともしてくれない。
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