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事務所の入っているビルを出たところで、トレンチコートを片手に持ったまま、力が抜けてしゃがみこんでしまった。
もっと、謙虚な受け答えをするべきだった……
あれじゃあ、まるで言い争ってるみたい。
給与が良くて福利厚生もしっかりしていて、副業OK、今住んでるアパートからも近い、こんな好条件な会社、きっともう出会えない。
「大丈夫? どこか具合でも悪い?」
見上げると、さっき面接の時に一言も話さなかった男性が、心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫です」
「ここは風が強いから、コート着ないでいると風邪ひいちゃうよ」
立ち上がるために手を差し出され、素直にその手をとった。
「さっきうちの会社に面接に来てた人だよね?」
「はい」
「ZEROplusでデザイナーをやってる優木です」
面接の時、彼は名乗らなかったから初めて名前を聞いた。
「カバン、持ってるからコート着て」
あまりにも自然にカバンを持ってくれたので、急いでコートを着た。
「ありがとうございます」
「さっき、びっくりした。鴨白さんがあんなに質問するの初めて聞いたから」
「誰にでもそうじゃないんですか?」
「違うよ。いつもはもっと淡白。採用決まるといいね」
返事の代わりに頭を下げた。
とても採用されるとは思えなかった。
次はもっとちゃんとした受け答えができるようにしないとダメだ。
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