出社初日

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出社初日

「財務諸表の作成できる応募者が他にいなかったから」 採用のメールをもらった時は驚いたけど、出社初日に社長に言われたのがこれだった。 「9時に来るように」とメールに書かれていたから来たものの、事務所には社長しかいなくて、挨拶もそこそこに、大量の領収書の入った段ボール箱を渡された。 「席はここ。俺の隣」 「他の方は?」 「知らない」 知らない? PCを起動させると、デスクトップに会計ソフトのアイコンがあった。 これを使えばいいんだよね? 有難いことに、前の職場で使っていたソフトと同じだった。 「そこのフォルダ開いて」 すぐそばから声がすると思ったら、背後から今にも顔がくっつきそうなところに社長の顔があった。 肩もふれている。 「ここに人事関係の書類が入ってるはずだから、自分で作成して。社会保険の手続きとかも自分でやって。人事系も一通りできるんだろ?」 「あの……」 「何?」 「ファイルに拡張子って表示されないんですか?」 「ああ……Windowsを使ってたのか」 「commandキーとカンマを同時に押下して、詳細から――」 「ありがとうございます。あと」 「何?」 「社長、近いです」 「だから?」 「セクハラです」 「本当のセクハラをしようか?」 「そういうのはなしでお願いします。今わたしが辞めるって言ったら、また一から募集して面接して、大変ですよ? ここまでためた領収書の山、ざっと見ても半年分はありそうですし」 「辞めないよ」 「どうしてそう言い切れるんですか?」 「この会社、希望通りなんだろ? 志望動機に当てはまる項目につけた〇印『仕事内容・給与体系・福利厚生・副業希望・家から近い』。デザインに興味があるとか一言も書いてない。こんなバカ正直に書くやつ初めて見た」 言い返せない。 デザイン事務所なんて縁遠い職種で、下手に嘘をついてもバレると思ったから、エントリーシートに正直に書いたんだった。 「だったら、お互い利害関係が一致してるみたいなので、1m以内に近づかないでください」 「それは、無理がある。デスク並べてるんだから離れられない」 「だったら、必要以上な接触は禁止でお願いします」 「つまらない女」 「それで結構です」 「あのさ」 「まだ何かありますか?」 「『鴨白』でいい」 「でも……」 「みんなにも、そう言ってるから」
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