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博士は空になったフラスコをテーブルに置き、満足そうな笑みを浮かべた。
そのとき、玄関のほうから微かな足音が聞こえ、研究室に一人の男が入ってきた。
男は深々と黒い野球帽をかぶり、口と鼻は大きなマスクで隠していた。
「お、お前は誰だ……?」
驚いた博士が問うと、男は黙ったままポケットから黒っぽいものを取り出した。
それは拳銃だった。
「俺は強盗だ。おとなしく金を出せ」
「強盗だって? どうやらお前は盗みに入る場所を間違えたようだな。残念だが、ここには金目のものは一切ないぞ」
「ウソをつくな」
「本当だ。ここはただの研究所であって、金も宝石もまったくないのだ」
「そんな話が信じられるか。まあいい……。お前を殺してから、ゆっくりと探させてもらおう」
男は引き金にかけた指に力を込めた。
博士は助けを呼ぼうと大声を出しかけたが、こんな寂しい林の中、こんな時刻に博士の助けの声を聞いているものなどいない。
拳銃から二回、耳をつんざく銃声が響きわたり、博士は胸のあたりをおさえながら、その場にくずおれた。
発明した薬のおかげで、百年ほど寿命が延びたはずの川上博士。
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