第11話 【終】親友にならなくてよかった

1/1
前へ
/11ページ
次へ

第11話 【終】親友にならなくてよかった

 そうして、作戦通りに引田先生に呼び出された私は『がんばってるんです。けどクラスの役に立ってるのか不安なんです……』としょげかえったふりをして、目を潤ませて訴えた。  ふりとは言ったが、先生に圧をかけられて傷ついたし、自分ができるかぎりフォローをしていたことを踏みにじられたようで悔しい思いをしたのは事実だ。  引田先生は、青ざめながらおろおろと私を励ます。 「天城さんは、委員長としてよくやってくれてるわ。大丈夫よ。頑張りすぎないでね」  と、今までと真逆のことを言い出した。  本当に、私のこともクラスのことも、何も見てない先生だと思った。  もうこの人には何も期待しない。  こうして、先生から免罪符をともぎ取った私は、鈴本さんの親友ではなく、ただのクラスメイトを貫き通した。  そして、一年間クラス委員長として、体育祭も文化祭も宿泊学習も順調に成し遂げた。  その間、三波さんたちが鈴本さんをいじめている姿は私の目の届く範囲では見られなかった。  私がうざくしたことも功を奏したかもしれないが、たぶん鈴本さんの存在に慣れ興味や嫌悪が薄くなったのだと思う。  鈴本さんはといえば、親友ができたようには見えなかったが、私以外のクラスメイトとともそれなりには話す姿は見かけた。    *  一年が終わり。クラス替えがあった。  担任は、異動になって他校に行ってくれた。  そして、私と鈴本さんと三波さんたちはそれぞれ別のクラスになった。    二年生になって、しばらくすると鈴本さんが友達と楽しそうにおしゃべりをして、廊下を歩いている姿を見かけた。  親友と呼べる友達ができたようだった。  声が小さくいつも何を言っているか聞き取れないほどだったのに、合唱部に入ったとも聞く。  人は出会いで変るものだ。  私が何もしなくても、彼女は自分の力で親友を得た。     そして、私は鈴本さんの笑顔を遠くに見ながら、彼女の偽りの親友にならなくて本当に良かったと心の底から思った。     終わり
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加