第8話 ミユキちゃんの勇気

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第8話 ミユキちゃんの勇気

「天城さん、その後、鈴本さんとのことどうなった? 仲良くなれたの?」 「ええと、そうですね。がんばってはいます」  親友になったわけではないので、言葉を濁す。  嘘はつきたくない。 「ふうん。そうなの? あんまり変わってない気もするけど?」 「空気、悪くないと思いますよ」 「まあいいわ。引き続きお願いね」 (何がだ? 教師が頼めばなんでもすると思ってるのか? できることとできないことがあるんだ)  私にはゆずれないモットーがある。  嘘はつかない。  弱い者は守る。  悪口は言わない。    なのに、偽りの親友になることはそれに反し嘘をつくと言うことだ。    いや、もしかしたら一時でも、そうした方が鈴本さんは救われるのかもしれない。  けれど、その後はどうする?  いつまでその嘘をつき続ければいいのか?  いつか露呈したときに、鈴本さんは今よりも傷つくのではないか?  ぐるぐると色々な考えがめぐったが、嘘をついて親友のフリをすることだけは絶対にしてはいけないことのように思えた。 (私だったら、そんなことはして欲しくない)  自分がされて嫌なことは、人にしない。  当たり前のことだが、人間として大切なことだと自分に言い聞かせた。    *  担任の引田先生は、後日、私とは別に親友のミユキちゃんを呼び出していた。  そして、私は思いもよらないことをミユキちゃんから告げられる。 「蘭ちゃん……。引田先生に、蘭ちゃんのこと色々聞かれたよ。ホント、ひどい。引田先生のこと信じられない!」  ミユキちゃんは、怒っていた。  私のためにだった。  引田先生は、私がクラス委員長として鈴本さんの面倒を全然見ていない、仕事をしていないんじゃないかとミユキちゃんに問いただしたらしい。 「鈴本さんと蘭ちゃんは親友のなのか? って聞かれたよ。そんなわけないじゃん。私がいるのにひどくない?」 (何を考えてるんだ、あのビッチ教師……)  私のはらわたは煮えくり返った。  男子生徒に色目を使うだけでなく、私のミユキちゃんまで泣かせた。断じて許さない。  ミユキちゃんは、あまりにもショックだったのかめずらしくまくし立てるように話す。 「ごめんね。鈴本さんと親友だとはどうしても言えなかったよ。だって、違うよね? 私と仲良しなのに」 「うん。ミユキちゃんとは親友。鈴本さんとはクラスメイト。創作の趣味が合えば、同人に誘ってもよかったけど、系統が違い過ぎたからね」 「だよね…! でも、蘭ちゃんはちゃんと鈴本さんの面倒見てたし、私、ちょっと嫉妬するくらいには優しくしてたよ。だから先生にはちゃんとそういったからね。蘭ちゃんは、ちゃんと委員長としてがんばってるって!」 「ミユキちゃん……。ありがとう」  先生が、私が委員長としての仕事をしていないと決めつけているところに、反論するのは勇気がいることだったろう。  私は胸が熱くなった。ミユキちゃんがかばってくれたことがうれしかった。  うれしかったが、この不利な状況をどう打開すればいいか頭を悩ませた。   
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