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第9話 委員長の田辺君
状況はクラス内でのいじめから、教師から私へのいじめに発展していた。
教師から、まだかまだかと圧をかけられるのは非常に辛かった。
私は、いじめの現場に居合わせたら止めに入っていたし、鈴本さんが孤立しそうなときはさりげなくフォローをしていた。
もうそれ以外のことは本人にがんばってもらうしかなかった。
彼女に友達ができないのは、私の責任ではない。
けれど、担任の引田先生は影では私が悪いかのように言っている。
私がさも鈴本さんを見捨てたかのようにだ。
担任の引田先生が私に何を期待しているのかは分かってはいたが、それでも私は鈴本さんの『ただのクラスメイト』を貫き通した。
クラス委員長としての仕事をしていないといういわれのない罪を先生に着せられてはしまうが、偽りの親友になるくらいならその方がいい。
嘘というのは、人も自分も傷つける。
絶対に譲れない一線だった。
*
私はクラス委員会の集まりが始まる前に、同じ委員長の田辺君に相談した。
「ねえ、田辺君。男子でいつもふざけて暴れてる佐田君ているじゃん? そのことで、先生に面倒を見ろとかって言われてる?」
「あー、うん。まあ、ちょっとはね。でも基本、放置? 人にケガさせたり、本人が危なくなければ、出来ることないでしょ?」
「先生に文句言われないの?」
「さあ、直接は言われてないよ。言われても生返事しておけばいいんじゃない? できることとできないことってあるし」
頭がいいだけではなく処世術にもたけている田辺君に、私は感心した。
「天城さんも先生になにか言われるの?」
「うん。まあね……」
「無理そうなことなら、やってる最中だとかいって一年引っ張るといいよ。どうせクラス替えで担任代わるし」
「うわ、そこまで考えてるんだ……」
「俺、優先順位あるし。兄弟と家のことが第一、次は勉強。それ以外は悪いけど余力でできる範囲。それでできないときは、池田とか勝地に助けてもらう。あいつらの方が顔は広いからね」
「人に助けてもらうか……。いいこと聞いた。ありがとう!」
私は、田辺君のヒントで大切なことを思い出した。
担任の女教師に困らせられているのに、どうして自分一人で何とかしようとしていたんだろう。
大人に対抗するには、大人の知恵を借りればいい。
家に帰ると、私は堰を切ったかのように母親に今まで担任の女教師に言われた数々の理不尽な言動を怒りもあらわにぶちまけた。
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