第一章

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 ───私が母を殺した?  月霜は目を見開く。  当然月霜にはその記憶はない。  そもそも年四つの幼子が人を、それも自分の母を殺せる筈がなかった。 「私じゃない。がやったの……」  月霜の弱々しい言葉は誰の耳にも届かなかった。  もう一度口を開こうとした矢先、父である皇帝に黙れと言わんばかりに睨まれた。  そして月霜をここに連れてきた張本人は、月霜の方を見もせずに、ただひたすらに紙に書かれている文字を読み上げている。  周りの人は読み上げられる言葉に耳を傾けながら、刺す様な視線を月霜に向けた。  その視線に善意がない事を、月霜は理解していた。  暫くその状況が続く。  永遠に続くのでは無いだろうかと月霜は落ち着かない気分になった。 「お父様……」  月霜は皇帝の元へ行こうとするが、玉座の前で兵に止められる。  月霜の行く手を遮るのは冷たい光沢を放つ剣。  皇帝はそんな月霜を見もしなかった。  あまりの心細さの故、月霜は涙を堪えきれずにわっと泣き出す。  そこで(ようや)く、銀髪の人が顔を上げ、月霜の方を見た。 「月霜様」  彼は微笑を浮かべて月霜の方にやってくる。 「部屋に戻りたいですか?」  月霜は涙を拭きながらこくこくと頷く。  この場所から一刻も早く去りたかった。 「では、罪を認めますと仰って下さい」  罪とかはもう月霜にとってはどうでも良かった。  怖い、帰りたいという思いの方が強かった。 「……つみを……みとめます……」  しゃくり上げながら、言われた通りの言葉を呟く。 「よく出来ました」  銀髪の人は微笑んで月霜の頭を撫でると、皇帝の方を向く。 「白状致しました。主上、如何なさいましょう」  皇帝は躊躇(ためら)う事なく命じる。 「律令通り、死を以て償わせよ。処刑は明日早朝に。解散」  月霜には何が何だか全く分からなかった。  皇帝が出て行った後、他の人達もぞろぞろ出ていく。  ひたすら泣く月霜も、銀髪の人に送ってもらい、自身の王宮まで帰った。
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