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月霜は涙を拭きながら、ゆっくりと乳母を追いかける。
乳母と同じ方向に行けば、遅くなっても追いつく事ができると月霜は信じていた。
「なんで、みんないなくなるの……?」
いたずらをしすぎてしまったからだろうか。
ならば二度といたずらをしない。
歩きながら月霜はそんな事を考えた。
暫く歩いた月霜はそう遠くない所に兵達がいる事に気がつく。
甲冑には蓮の花の紋が彫られている。
天籟国の兵だ。
兵達は進む事なく、その場に止まっていた。
その上、妙に騒々しい。
月霜は兵達に気付かれない様に、そっと岩陰に隠れて様子を窺った。
「だから、月霜は私が殺しました」
乳母の声だ。
大声で叫んでいた。
「どうやって我々に信じろと?貴女は月霜様の乳母。限りなく怪しいのですが」
相手は昨日、月霜を断罪した銀髪の男。
相変わらず穏やかな口調である。
昨日の事を思い出し、月霜は身震いをした。
「乳母だからといって、何故あの子を連れて逃亡する様にして生活をしなければならないのです?あの子さえいなくなれば、この宝は私の物。その上、逃亡生活を終わらせる事が出来る。乳母の情という物をあまり買い被らないで下さい」
宝というのは月霜が王宮から出てきた時に渡された布袋の中に入っている物の事である。
男はその布袋をちらりと見た。
「なるほど……。金に目を眩まされて情を捨てたのですか……。聡明な方ですね」
静かに微笑んだが、氷の様な視線を乳母に向ける。
「どうやって殺したのです?」
「崖に突き落としました。ですから、探しても労力の無駄ですよ」
「そうですか……。この女を拘束しろ」
銀髪の男は傍らにいる兵に命じる。
乳母はまるで最初からこうなると分かっていたかの様に、抵抗一つせず兵に捕らわれた。
「全軍、崖を捜索せよ。死体でも構わない。どんな状態だろうと月霜様を王宮に連れ戻せ」
はっと兵達は動き始める。
「ちょっと!!」
その様子を見て乳母は血相を変える。
「月霜は殺したって言ってるじゃないですか!!」
男は微笑んだ。
「ええ。だから命じているのではありませんか。死体でもいいから連れ戻せ、と。何故、貴女が慌てる必要があるのです?殺したのですよね」
「も、勿論」
「では心配いらないじゃないですか。労力は惜しみません。それとも、実は月霜様は生きていたりして?」
乳母はたじろいだ。
隠れている月霜もひやっとする。
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