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「そんな訳ありません!!月霜は確かに殺しました!!」
乳母は頑として認めない。
銀髪の男はいよいよ面白そうに笑った。
「殺してその宝を奪い取って、その財産で生きようと?」
「ええ」
「でしたら何故、兵に捕らわれた時に抵抗しなかったのです?捕まえられたら、貴女の描いた未来は消えるを事をご存知の筈です。育ててきた月霜様を裏切ってまで金に執着する人間が、此処で抵抗一つすらしないのは妙ですね」
「それは……」
「それは?」
乳母の言葉は続かなかった。
そして目が泳ぐ。
銀髪の男は当然その行動を見逃さなかった。
「僕が代わりに答えましょうか。貴方はやはり金で動く様な人間では無かったのです。この上なく愚かな人間なんですよ」
「違います」
「何も違いません。貴女は月霜様を逃した。そしてその布袋を持って、月霜様から全てを奪った事を演じて囮になろうとした。彼女は死んだ思い込ませる事が貴女の目的。自分の身を犠牲にすれば彼女は安全になる。つまり、捕まる事を覚悟していたから貴女は抵抗しなかった。そうですよね?」
乳母はしきりに首を横に振る。
岩陰に隠れている月霜は、銀髪の男の言葉の意味は分からずにいたが、乳母が自分を守ろうとしているのは何となく分かった。
「認めても問題はありません。既にこの計画を白状した者がいます」
「嘘です!!私達の中には……」
はっとして口を噤むが、もう既に遅い。
その行動は白状している事に等しかった。
「ふふ、正直な方ですね。ですが、僕は嘘をついておりません。本当に白状したのですよ。四楽堂に連れて行ったらあっさりとね」
四楽堂は拷問する場所である。
入れば生きている状態で出てくる事はないと言われる場所だ。
先代の君主の時はあまり使われていなかったが、君主が変わってから悲鳴が途絶える事はなかったという。
「そんな……」
「ああ、安心して下さい。白状したのはあの教育係ではありません」
「……」
「ご老体だからでしょうか。呆気なくこの世を去りました。あの人ならもっと多くの情報を提供して下さるだろうに。残念です」
「この人でなし!!」
乳母はかっとなって怒鳴る。
それに対して銀髪の男は全く動じなかった。
それどころか心底愉快そうにしていた。
「良いですね、その顔。女性のその表情、好きですよ」
月霜は不意に銀髪の男が恐ろしい様に感じた。
穏やかな表情であるのに、背筋をぞくりとさせる冷たさを持つ。
昨日握った銀髪の男の手と同じ様な冷たさだと、月霜は思った。
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