第一章

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「も、が何を意味するのかは分からんが、この剣で己の身を守る事くらいは出来る」  月霜は俯いた。  自分から母を奪ったのはの剣。  自分から乳母を奪った銀髪の人の剣。  憎らしかった。  剣も、剣を振る人も。 「ねえ、私に剣の振り方を教えてくれる?」  感情の籠っていない声が月霜の口から出る。  大切な人を奪った剣は憎い。  だが、それを使って大切な人を奪った人達はもっと憎かった。  憎い者を打つには憎い物を使えば良い。  だから、月霜は男に頼んだ。 「復讐か?」  男は月霜がそう頼む事を知っていたかの様に、眉一つ動かさなかった。 「ふくしゅう?」  月霜は首を傾げる。  復讐かどうかは月霜には分からない。  ただ、自分の全てを奪った人に同じ目に合わせたいと思った。 「復讐なら、教える事は出来ない。お前の様な復讐に目を奪われた人が振う剣は人の命を無惨に道具にしかならないからな。剣はその様な物ではない」  でも、私が見てきた人達の剣はそんな物だった。  月霜は咄嗟にそう言おうとしたが、ぐっと飲み込んだ。  自分の目的の為に、何としても剣を習う必要がある。  この言葉を言ってはいけない。 「ふくしゅうではないわ」  だから月霜は嘘をついた。 「自分を守れる程、強くなりたいだけ」  その時に、月霜の瞳が常闇の様に暗くなっている事に彼女は気が付かなかった。  淀んだ瞳を向けられた煥峯は眉を顰める。  月霜の表情は幼い子供の表情ではなかった。  煥峯は目を瞑り、軽く溜め息をつく。 「良いだろう。教えてやる。ただ、お前が思っている程甘ぬるいものではないぞ」  煥峯の許諾に、月霜は顔を綻ばせた。 「覚悟は出来ている。何でもするわ」  憎い人を消す為ならばと、そっと心の中で呟いた。  だが、その日であった。  月霜は例の夢に悩まされる様になったのは。  月霜の母や乳母を殺した剣を彼女もまた手に取ったからか、はたまた復讐を促そうとしているのか、確かな理由は月霜にも分からなかった。  その夢は煥峯に気付かれてしまったが、月霜は昔の夢を見ただけと誤魔化した。
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