第二章

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「傭兵として王宮に忍び込む予定です。禁軍の兵になる為に」  禁軍というのは皇帝を直に護衛する兵達を集めた軍である。  よって禁軍に入れば皇帝に近付く機会は一気に増える。  かなりの腕前を要するが、月霜は剣の腕には自信を持っていた。  煥峯は首を横に振る。 「駄目だ。お前は夜中に動かない方が良い」 「ではどうしろと言うのです」  必死に立てた計画を一蹴され、月霜はやや不機嫌になる。  文字の読み書きがまともに出来ない月霜が王宮に忍び込む為には武官になる他ない。  だが、武官は大抵夜に動く。  夜に動くなと言われてしまえば月霜は何も出来なくなる。 「六官の内の一人、冬官になれ」  そんな月霜に煥峯は突拍子もない事を告げた。  六官と言うのは国を支える九人の官吏である。  国で挙げる科挙という試験を通った有能な人達だ。  六官は天官、地官、春官、夏官、秋官、冬官の六つの役職で成り立つ。  天官は国の財務を司り、太宰と呼ばれ、地官は行政を担当し、宰相に相当する。  春官は祭事を仕切り、夏官は禁軍を指揮し、秋官は刑を下し、冬官は災害で荒れた地を修復させる役割を持つ。  六官の中で夏官以外は文官だ。 「師匠、私は剣を振ること以外何もできませんよ。冬官は務まりません」 「剣を振るだけで良い」  月霜の目は点になった。 「科挙、通りませんよ」 「安心しろ。大丈夫だ」  月霜は首を傾げた。  剣を振るだけで通る科挙など聞いた事がなかった。  唯一の武官である夏官も剣を振って通った訳ではない。 「言葉足らずだったな。正確に言えば、お前は科挙に参加する必要はない」   月霜はいよいよ不思議に思った。  それに構わず、煥峯は続く。 「科挙は俺が受ける」  科挙は戦略、詩賦(しふ)が問われる。  戦略はともかく師匠に文才はあったのだろうかと月霜は疑問に思った。 「俺の事は心配するな」  煥峯の目は確信に満ちていた。  不思議な事に、煥峯が確信した物事はどんなに難儀でも成し遂げる事ができた。  月霜も知っていた為、余計な事は言わずに従う事にした。
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