第二章

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「その任務、私も任せられたからよ」  そっと微笑んで瑾容は言う。  不意打ちであった。  瑾容もいると月霜は聞かされていない。 「任せられた、というよりかは任せて下さいと頼み込んだ感じかな。月霜と共に行きたいって」 「何故」  月霜は顔を顰めた。  任務とは言え、復讐に瑾容を巻き込むのは不本意であった。 「うーん、その前に肩を離して欲しいのだけれど……」  月霜の指はしっかりと瑾容の肩に食い込んでいた。  謝りながら月霜は慌てて離した。 「あんなに小さくて弱かった子がこんなにも逞しくなるとはね……」  瑾容は月霜に掴まれた所を摩りながら呟く。  月霜が来たばかりの頃はとにかく弱く、弱い上に態度ばかりは大きい。  その為、屡々(しばしば)他の弟子達と衝突し、その度に剣での一騎打ちを申し込まれては叩きのめされていた。  その度に助けに入ったのが瑾容である。  当時は瑾容が弟子達の中で一番強かった。 「そうだ。もうあの頃の私ではないのだ。瑾容がついて来なくても任務をこなす事はできる」  ふふと瑾容はおかしそうに笑う。 「態度が大きいのは相変わらずね」  月霜はむっとする。  未熟だと言われている様で納得がいかなかった。  強いのは知っているよと、見兼ねて瑾容は宥める。 「だからこそ、貴女が心配なの」  月霜は首を傾げた。  強いから心配であるという意味が分からなかった。 「強い人ほど、全てを抱え込んでしまうの」  瑾容はじっと月霜の目を見詰めて語りかけた。 「出来ない事は無理にやろうとしてはいけないのよ」  昔の、幼い月霜も分かっていた。  自分よりも先に弟子入りした弟子達と一騎打ちをしても勝てないという事に。  それでも彼女は逃げなかった。  彼女自身が、逃げるのを頑として受け入れなかった。  全身に傷を負おうとも。  月霜は強い。  誰よりも強い。  だからこそ、瑾容は心配であった。  恐らく、月霜は勝てない敵を前にしても同じ事をするだろうと。  そうして命を落とすだろうと。  そんな状況にならない為に、瑾容は煥峯に頼んだ。  共に行かせて欲しいと。
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