第二章

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「とにかく、そういう事だから」  と、瑾容は屈託のない笑みを浮かべる。  そういう事がどういう事なのか、月霜にはいまいち良く分からなかったが、依頼主である煥峯が決めた事ならば逆らう事が出来ない。  月霜は渋々頷いた。 「手始めに冬官を殺すのよね?」  さらりと言う瑾容は、煥峯と通ずる何かがあると、月霜は思った。  妙な恐ろしさを感じた。 「近付く(すべ)はあるの」  月霜は頷く。  冬官に近付くのは皇帝に近付くよりも遥かに簡単であった。  使用人として雇って貰えば良い。 「女中として屋敷に入ろうかと思っている。如鼠(じょそ)に頼んで偽の請状(うけじょう)を書いて貰うつもりだ」  女中として屋敷に雇って貰うには、屋敷側の承認が必要である。  それが請状というものであった。  本物の請状を手に入れる時間は月霜には無い為、偽の請状を書いて貰うしか無かった。 「如鼠ねえ……」  瑾容はそっと呟いた。  如鼠は情報屋をやっている男だ。  素性は分からないが、情報集めや偽造に長けている。  煥峯も、事あるごとにそこに足を運び、情報を手に入れていた。  常連と呼んでも良いくらいだが、瑾容は如鼠の事を良く思っていない。  如鼠の情報はあの手この手を使って手に入れた物が大半だが、中には情報を求めて訪ねる客から手に入れた物もある。  数年前、賊の情報を求めに、如鼠の所にやって来た商人がいたが、如鼠は賊の位置を商人達に教えたものの、商人達が去った後にやって来た賊にも商人の居場所を教え、その結果商人達が返り討ちに遭ったという事件が起きた。  おまけにその商人達はよく如鼠の世話になっていたという。  如鼠の情報は一方通行ではない。  金さえ払えば誰でも手に入れる事が出来るのだ。  驚く瑾容に、煥峯は、情報屋とはそんな物だと言って、相変わらず如鼠の所に足を運んでいた。  煥峯は何か対策をしているのかは瑾容には分からなかったが、如鼠に無闇に頼るべき人ではないと瑾容は思った。 「如鼠は金を貰ったのならば情報を提供するが、自分から情報を広める様な事はしない」  月霜は、心配そうにしている瑾容に言う。 「それに、偽の請状を作って貰うだけだ。良い所で働きたいとか、幾らでも言い逃れ出来る。だから、心配しなくても良い」
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