5人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ……そうね」
瑾容は浮かない顔であった。
「そうして屋敷に忍び込んで、時期を見計らって冬官を殺す。早くとも半年はかかるだろうな」
月霜の言葉に、瑾容は少し考えて頷く。
冬官の屋敷は南の方の霞木という地方にある。
それに対して、月霜や瑾容の住んでいる双龍山と呼ばれる山は北方に位置していた。
よって、移動だけでも一月半を要すると、瑾容は睨んだ。
向こうに着いても暫くは動けない。
月霜の言う通り、早くとも半年はかかる。
「まあ、取り敢えず如鼠に依頼して、それから村の麓で馬を借りるか」
瑾容は黙って頷き、二人は山道を歩き始めた。
二人は煥峯に拾われた時から、双龍山の頂に位置する煥峯の住まいに住んでいた。
双龍山。
その名の通り、連なる山々は二匹の龍。
東には一際険しい龍角が、西には少しなだらかになった龍尾が雲の狭間からその姿を晒す。
荒削りの山に無駄な部分は一切なく、凛として聳え立っている。
岩肌は鱗の如く、硬くて陽の光を受けて輝く。
「今思い出したけど、月霜。師匠に謝った方が良いわよ」
険しい山道に足を滑らせない様に注意しながら、瑾容は月霜に忠告した。
「師匠の目的を探ろうと誤解された事に対して?」
「それもそうだけど、今思い出したのは別の事」
月霜ははてと思った。
師匠に謝らないといけない事は、今日の出来事以外には思い当たる節がない。
そして瑾容は今思い出したと言う。
山道に関係する事だろうか。
「──あ」
何かを思い出した様に月霜は声を上げる。
ふふと瑾容は、
「心当たりあるでしょ?」
と笑った。
心当たりがあるどころではない。
あり過ぎるのだと、月霜は思った。
双龍山は岩石の山である。
高くて険しい。
その為、水は得にくく、植物もまともに育たない。
故に、食料も水も、全ては村の麓で調達しなければならなかった。
一日に数回。
新入りの弟子達は修行の一環として、食料や水を求めに、双龍山の唯一の山道を何度も何度も往復しなければならない。
弟子が多い年は、この仕事はそこまで苦では無いが、今年の新入りの弟子はただ一人。
それも齢四の幼子だ。
最初のコメントを投稿しよう!