第二章

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「まあ……そうね」  瑾容は浮かない顔であった。 「そうして屋敷に忍び込んで、時期を見計らって冬官を殺す。早くとも半年はかかるだろうな」  月霜の言葉に、瑾容は少し考えて頷く。  冬官の屋敷は南の方の霞木(かき)という地方にある。  それに対して、月霜や瑾容の住んでいる双龍山(そうりゅうざん)と呼ばれる山は北方に位置していた。  よって、移動だけでも一月半(ひとつきはん)を要すると、瑾容は睨んだ。  向こうに着いても暫くは動けない。  月霜の言う通り、早くとも半年はかかる。 「まあ、取り敢えず如鼠に依頼して、それから村の麓で馬を借りるか」  瑾容は黙って頷き、二人は山道を歩き始めた。  二人は煥峯に拾われた時から、双龍山の頂に位置する煥峯の住まいに住んでいた。  双龍山。  その名の通り、連なる山々は二匹の龍。  東には一際(ひときわ)険しい龍角が、西には少しなだらかになった龍尾が雲の狭間からその姿を晒す。  荒削りの山に無駄な部分は一切なく、凛として(そび)え立っている。  岩肌は鱗の如く、硬くて陽の光を受けて輝く。 「今思い出したけど、月霜。師匠に謝った方が良いわよ」  険しい山道に足を滑らせない様に注意しながら、瑾容は月霜に忠告した。 「師匠の目的を探ろうと誤解された事に対して?」 「それもそうだけど、今思い出したのは別の事」  月霜ははてと思った。  師匠に謝らないといけない事は、今日の出来事以外には思い当たる節がない。  そして瑾容は今思い出したと言う。  山道に関係する事だろうか。 「──あ」  何かを思い出した様に月霜は声を上げる。  ふふと瑾容は、 「心当たりあるでしょ?」  と笑った。  心当たりがあるどころではない。  あり過ぎるのだと、月霜は思った。  双龍山は岩石の山である。  高くて険しい。  その為、水は得にくく、植物もまともに育たない。  故に、食料も水も、全ては村の麓で調達しなければならなかった。  一日に数回。  新入りの弟子達は修行の一環として、食料や水を求めに、双龍山の唯一の山道を何度も何度も往復しなければならない。  弟子が多い年は、この仕事はそこまで苦では無いが、今年の新入りの弟子はただ一人。  それも(よわい)四の幼子だ。
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