第二章

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 水や食料を小さい体で担ぎ、険しい山道を登り降りするのがあまりにも気の毒で、月霜は見ていられなかった為、こっそりとその子の代わりに水や食料を運んでいたのだ。  だが、これは修行の一環。  修行を怠る事を良しとしない煥峯は、怠る弟子も、それに加担する弟子も許しはしない。  つまり、水を運ぶのを怠った新入りの弟子も、代わりに水を運んだ月霜も、煥峯にばれてしまえば只では済まない。  そして、瑾容の言った謝った方が良いという言葉。  二人のを、煥峯は既に知っている事を意味していた。  瞬時に月霜は蒼ざめた。 「ああ……」  嘆く月霜をくすくす笑いながら、瑾容は付け加える。 「師匠はそこまでお怒りになっていなかったわよ。でも、何か貴女に言いたそうにしていたわ」 「──説教?」  そんなどころだろうねと、瑾容は呑気に呟いた。  月霜はほっとした。  一度、煥峯を怒らせた事で、太刀を持って一晩中素振りをさせられた事があったのだ。  説教のみで済むほど、嬉しい事は無かった。  午前中、二人は山の麓の村で用事を済ませ、午後は旅に必要な物を買い集めた。  その夜、家に戻った月霜はすぐさま煥峯の所に行った。 「師匠……」  煥峯は蝋燭を灯して、静かに書物を読んでいた。  月霜はその様子を見て、小さく息を呑んだ。  月霜は煥峯が剣を振る姿しか見た事がない。  その為、静かに書物を読む姿は想像できなかった。  だが、不思議にも違和感はなかった。  幻覚だろうかと、頬を(つね)る月霜に煥峯が気が付き、書物を置いて顔を顰める。 「何の用だ」  書物を置いて、月霜の方を向いた瞬間、煥峯は月霜のよく知る煥峯に戻る。  冷ややかな口調に、鋭い視線。  後ろめたい気持ちもあり、月霜はしどろもどろになった。 「あの……今日の事はすみませんでした。その……」  煥峯は軽くため息をつく。  蝋燭の火が軽く揺れ、月霜はどきりとした。 「今日の事はもう良い。謝るなら別の事にしろ」  煥峯はじっと月霜を見つめる。  月霜は観念した。  自分から白状するまで、煥峯は逃すつもりはないと知ったのだ。 「毅渓(きけい)の修行を邪魔しました。申し訳ありません」  毅渓は新入りの弟子の名前である。  煥峯は軽く頷いた。
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