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第三章
「では、師匠。行って参ります」
如鼠に作って貰った偽の請状が荷物に入っている事を再三再四と確認し、月霜は馬に跨った。
冬の早朝であった。
白くなる吐息で、月霜の顔にかかる髪は微かに濡れる。
道は凍っており、ひんやりとした感覚が足の裏から伝わる。
「月霜……は、早く行くわよ」
既に馬に乗っている瑾容は震える声で出発を促した。
煥峯も、
「気を付けて行け」
と頷く。
月霜と瑾容よりも薄着であるのにも関わらず、煥峯は少しも寒そうにしている様子は無かった。
「はい。師匠も早く家に帰って下さいね」
こんな寒い日の早朝に、山の麓まで見送りに来た煥峯に対して、月霜は申し訳なさを感じた。
煥峯が頷くのを見て、月霜は既に悴み始めた手で手綱を握り締め、馬を走らせた。
風を切る音が耳を過ぎる。
それと同時に、顔を満遍なく刺す寒さが二人を襲った。
月霜は一度止まり、耳当てをしっかりとつけ、狐の毛皮の首巻きを、顔の半分を覆いかくす様に巻きつけた。
目は乾燥を防ぐべく、絶えずに涙を流していた。
北方の冬は寒くて乾燥している。
それ故に凌ぎ難いものであった。
農民達は夏の間に必死に一年分の作物を育て無ければならない。
そうして何も育たない冬に向けて蓄えるのだ。
どの家も、限られた食料で冬を越さなければならない。
よって、何処にも余分な食料はない。
月霜と瑾容が準備する時に一番難しいと感じたのが食料の調達であった。
故に、冬官を殺す計画を立てた日から、五日も要して漸く出発する事が出来た。
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