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「俺がそんな事をする様に見えるか?依頼内容は皇帝を殺す事。歴とした依頼だ」
月霜は再び黙る。
お使いの様な口調で皇帝の命を奪って欲しいと言い渡す煥峯。
聞き間違えだろうかと月霜は思わず耳を疑った。
「手段は問わない。この国の君主の命を奪えばたら依頼を成し遂げたと見做し、お前を独り立ちさせる」
月霜の聞き間違えではなさそうだった。
「──何の冗談ですか」
「冗談は言っていない」
煥峯の表情はいつに無く真剣だった。
月霜は顔を顰める。
煥峯が冗談を言っている訳でも、月霜を憐んでいる訳でも無いことを、月霜は身を以て感じた。
この依頼は、簡単ではないどころか護衛と比べにならない程困難だ。
「ええと……せめて理由だけでも教えて頂けないでしょうか」
煥峯は首を横に振る。
「依頼人のあれこれを探るなと言わなかったか?俺もまた例外ではない。お前はただ依頼を果たす事だけを考えていれば良い。余計な詮索はするな」
強引な態度に月霜は苦々しい表情をする。
情が移るとまともに依頼を果たせなくなる為、依頼人の事情を詳しく詮索してはいけないと言い聞かされてきたが、今回のこれはあまりである。
「もう一度だけ聞く。この依頼を引き受けるか?」
その上煥峯は一向に引き下がらない。
困ったと月霜は溜め息をつき、手元の剣を見た。
月霜が剣を手にしたのは復讐の為である。
皇帝は月霜が復讐するつもりで虎視眈々と狙っている相手の一人。
煥峯の依頼はむしろ月霜にとっては都合の良い依頼で、すぐにでも二つ返事で引き受けたかった。
だが、月霜は復讐の事を煥峯には伝えていない。
当然、その標的の一人が皇帝である事も。
だからこそ、妙だと感じた。
偶然にしては出来すぎている感じがし、月霜は安易に引き受ける事が出来なかった。
「もう少し考える時間をやろう。だが、今日中には決めてくれ」
そう言って煥峯は部屋から出た。
その背後を見て、月霜は再びため息をついた。
月霜が煥峯に拾われてから十二年経つ。
煥峯の所での暮らしは既に月霜の体に馴染んでおり、大概の決まりは知っていた。
それでも、煥峯が何を考えているのか、月霜は一向に分からなかった。
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