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第一章
───母は石になった。
月霜が母の墓を前にしてそんな事を思ったのは、幼い彼女がじゅうしゃの持つ、血の滴る剣を見てからおおよそ一月経った日のことである。
周りには嘆き悲しんでいる従者達。
だが、その中には皇帝の姿も、じゅうしゃの姿も居なかった。
まだ四つになったばかりの月霜はなぜ従者達が泣いているのか分からず、母に会いたいと言ったら石碑の前に連れて来られた事に対して困惑していた。
母は石になったとは思っているものの、まだ母の死を理解できる年齢ではなかった。
「公主様、陛下がお呼びです」
公主様と呼ばれた為、月霜はじゅうしゃに呼ばれたと思い、声のした方を向くが、そこに立っているのは知らない人だった。
だが、穏やかな表情をした、優しそうな人であった。
銀色の輝く長髪を揺らして、月霜に手を差し伸べる。
「行きましょうか」
月霜はこくり頷き、銀髪の人の手を掴んだ。
冷たい手だと、月霜は思った。
「あなた若いのにどうして髪は白いの?」
月霜は物珍しそうに揺れる銀髪を見つめて聞く。
「どうしてでしょうね。僕の髪は生まれつきこうなのですよ」
「ふーん」
天籟国の人達の髪色は殆ど黒である。
年を重ねると黒が少なくなり白に変わっていくのだが、髪全体が銀色である人を月霜は見た事がなかった。
暫く歩き、二人は永和殿、皇帝が国事を行う所に着く。
中には沢山の官吏がおり、二人が中に入ると視線は全て月霜に注がれた。
ひそひそと何かを囁く声が止み、張り詰めた空気になった。
───怖い。帰りたい。
不安に襲われた月霜は手を握る力を強める。
口元をへの字に曲げて、今にも泣き出しそうな様子の月霜に、銀髪の人はそっと微笑んで宥めた。
「大丈夫ですよ。すぐに終わりますから」
月霜はこくりと頷く。
悪い人には見えなかった為、信じる事にした。
銀髪の人は月霜の手を離し、玉座にいる皇帝に叩頭する。
「主上、罪人をお連れしました」
月霜は首を傾げる。
罪人というのは罪を犯した人である事は分かっていたからだ。
いたずらは好きであったが、それを咎められた事は一度もなかった為、なぜ罪人と呼ばれるのだろうと月霜は不思議に思った。
「頭を上げよ。始めるが良い」
皇帝は月霜の方を見ずに、淡々と言い渡す。
銀髪の人は身なりを整え、
「ではこれより、皇后を殺した罪人、月霜の断罪を始めます」
と冷ややかな声で、永和殿にいる全ての人に聞こえる様に言った。
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