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その夜、泣き疲れてぐっすりと眠る月霜を、侍女達が起こした。
月霜は重い瞼を擦り、不機嫌そうに侍女達を見つめる。
「良いですか、月霜様。この荷物を持って今すぐここから出て行って下さい」
そう言って小さな布包みを月霜に渡す。
「どうして?」
「それは……」
侍女達は言葉に詰まる。
それを見て月霜は更に機嫌を悪くする。
「絶対に出て行かない」
昼の事もあり、月霜は絶対に自分の王宮、三水宮から出て行きたくなかった。
「そんな事言わずに……」
「どうして私が出て行かないといけないの」
侍女達は困った顔をした。
出ていくなら貴女達が出ていけばいいと月霜が言おうとした矢先、侍女達の背後から聞こえるしわがれた老婆の声によって遮られた。
「公主様では無くなったお前にはこの三水宮にいる資格は無いからだよ、月霜」
かなり高齢だが、腰をしっかりと伸ばして、険しい目で月霜を見ていた。
名前は瑶悧。
月霜の教育係を務めている人で、普段から厳しいため、月霜は苦手だった。
「お前がここにいると邪魔だ。今すぐ出ていけ」
瑶悧の表情は恐ろしいもので、月霜が震えながら途方に暮れていた。
公主でなくなった事をたった今知ったのだ。
「本当に?私はもうこうしゅさまでは無くなったの?」
月霜は周りの侍女達に助けを求める。
否定して欲しかった。
だが、侍女達はお互いの顔を見合わせて渋々頷く。
「瑶悧様の言う通りです。ですので、此処から去って下さい」
「もう分かったでしょう。お前が出て行かぬというのならば力尽くで追い出してやる」
瑶悧は箒を振り回し始めたため、月霜は布包みを持って一目散に駆け出した。
外にはなぜか月霜の乳母が待機していた。
乳母は月霜の手を引っ張り、暗闇の中を走る。
「月霜様、どうかお元気で」
月霜の背後で侍女達と瑶悧が涙ぐみながら頭を下げたのを、月霜は知らなかった。
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